悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
解明
アデライトは、嘘だけは絶対につかないと決めている。
だから、ミレーヌがアデライトに言ったことは本当である。国王のお手付きになり、解雇され――そのせいか、いや、それより前から恨まれていたのか送金を奪われ、母親が死にかけていたと言うのに。
「それでも……没落貴族の娘である私に慈悲を与え、一時期とは言え雇ってくれたことには感謝しています……そんな恩人である王妃様を、裏切ったのですから。恨まれるのは、当然だと思います」
本心からそう言うミレーヌに、アデライトは思う。
領地ではアデライトが聖女だと言われているが、本当の聖女とはミレーヌだと。
……とは言え、聖女のように慈悲深いからこそミレーヌは利用され、酷い目に遭わされ易い。そういう意味では、同じく利用しているアデライトに言えた義理はないが、王都を離れたのは良かったと思う。
話を戻すが、当のミレーヌから隠しておくように言われていたが――いずれは、リカルド達に明かすつもりではいた。秘密を明かすことで、より彼らとの距離を縮めようと思っていたのだ。それ故、サブリナに暴露されたのはむしろ好都合だった。
「ミレーヌが、そんなことを……?」
「ミレーヌ……」
アデライトの言葉に王妃が軽く目を見張りながら尋ね、リカルドは感激したように彼女の名前を呼ぶ。
それに内心、引っかかったと嗤いながらもアデライトはしおらしげに言葉を続けた。
「ええ……今まで言えず、申し訳ありません。ですが、安心して下さい。ミレーヌ先生は、今は我が領地で……父と、再婚することになっております」
「「「えっ!?」」」
刹那、普段は動じない王妃とリカルド――だけではなく、サブリナまで驚いて声を上げた。おそらく、サブリナの頭の中でミレーヌは王家を恨み続け、だからこそ他の誰かと幸せになるとは思っていなかったのだろう。
「好きの反対は、無関心なのにね?」
「ええ、恩こそ感じていても、ミレーヌ先生にとって王家は過去の存在です」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトはキッパリと答えた。
いくら聖女のように優しいとは言え、ミレーヌは王妃に解雇され、王妃怖さで国王からの援助もなく身一つで放り出されている。ちなみにリカルドは子供だったので、単なる教え子の一人としか思っていない。
そんなミレーヌの中では、死にかけた母親と路頭に迷っていたところを救った父・ウィリアムとアデライトに対する感謝の方がずっと大きい。しかも父親の散財と逃走により没落した彼女にとっては、娘であるアデライトを自由に行動させ、それを見守りつつ領地を誠実に統治するウィリアムは父親としても男性としても理想だったらしい。
しかし合意ではなかったとは言え、国王のお手付きだったミレーヌはひっそり父を想うだけで満足していたが――父もまた、健気に自分とアデライトを支えてくれるミレーヌを愛しく想うようになっていた。快活な母親と違うタイプだと言うのも良かったようである。
そしてアデライトが王立学園に入ったことで距離が縮まり、冬期休暇の時にアデライトは二人から再婚すると打ち明けられたのだった。
だから、ミレーヌがアデライトに言ったことは本当である。国王のお手付きになり、解雇され――そのせいか、いや、それより前から恨まれていたのか送金を奪われ、母親が死にかけていたと言うのに。
「それでも……没落貴族の娘である私に慈悲を与え、一時期とは言え雇ってくれたことには感謝しています……そんな恩人である王妃様を、裏切ったのですから。恨まれるのは、当然だと思います」
本心からそう言うミレーヌに、アデライトは思う。
領地ではアデライトが聖女だと言われているが、本当の聖女とはミレーヌだと。
……とは言え、聖女のように慈悲深いからこそミレーヌは利用され、酷い目に遭わされ易い。そういう意味では、同じく利用しているアデライトに言えた義理はないが、王都を離れたのは良かったと思う。
話を戻すが、当のミレーヌから隠しておくように言われていたが――いずれは、リカルド達に明かすつもりではいた。秘密を明かすことで、より彼らとの距離を縮めようと思っていたのだ。それ故、サブリナに暴露されたのはむしろ好都合だった。
「ミレーヌが、そんなことを……?」
「ミレーヌ……」
アデライトの言葉に王妃が軽く目を見張りながら尋ね、リカルドは感激したように彼女の名前を呼ぶ。
それに内心、引っかかったと嗤いながらもアデライトはしおらしげに言葉を続けた。
「ええ……今まで言えず、申し訳ありません。ですが、安心して下さい。ミレーヌ先生は、今は我が領地で……父と、再婚することになっております」
「「「えっ!?」」」
刹那、普段は動じない王妃とリカルド――だけではなく、サブリナまで驚いて声を上げた。おそらく、サブリナの頭の中でミレーヌは王家を恨み続け、だからこそ他の誰かと幸せになるとは思っていなかったのだろう。
「好きの反対は、無関心なのにね?」
「ええ、恩こそ感じていても、ミレーヌ先生にとって王家は過去の存在です」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトはキッパリと答えた。
いくら聖女のように優しいとは言え、ミレーヌは王妃に解雇され、王妃怖さで国王からの援助もなく身一つで放り出されている。ちなみにリカルドは子供だったので、単なる教え子の一人としか思っていない。
そんなミレーヌの中では、死にかけた母親と路頭に迷っていたところを救った父・ウィリアムとアデライトに対する感謝の方がずっと大きい。しかも父親の散財と逃走により没落した彼女にとっては、娘であるアデライトを自由に行動させ、それを見守りつつ領地を誠実に統治するウィリアムは父親としても男性としても理想だったらしい。
しかし合意ではなかったとは言え、国王のお手付きだったミレーヌはひっそり父を想うだけで満足していたが――父もまた、健気に自分とアデライトを支えてくれるミレーヌを愛しく想うようになっていた。快活な母親と違うタイプだと言うのも良かったようである。
そしてアデライトが王立学園に入ったことで距離が縮まり、冬期休暇の時にアデライトは二人から再婚すると打ち明けられたのだった。