悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
成遂
そうなると王都にも話が届きそうなので、ミレーヌからはあえてこちらからは言わないにしても、聞かれたら答えて良いと言われていた。そして内々でだが、春期休暇の時期に式を挙げるのだとも。
……一回目で、王都から離れていたミレーヌは復讐対象ではない。
そんな彼女と父が結ばれたことを、アデライトは本当に喜んでいた――一回目と違う展開になったことで、父の生存率が上がると思えたからだ。
「明日、領地に戻るのが楽しみです」
「そうなの……ミレーヌに、よろしく伝えてちょうだいね? 式には間に合わないけれど、祝いの品を送らせて貰うわ」
「ああ、私からも……それにしても、君もミレーヌの教え子だとは」
「恐れ入ります」
アデライトの父と再婚することで、国王を挟んでの恋敵になることがなくなり、王妃の表情は穏やかだった。そしてリカルドは、アデライトとの思わぬ共通点に感じ入っているらしい。
アデライトが頷いたところで、王妃が一転して冷ややかな声でサブリナに話しかけた。
「……それで? 何故、呼んでもいないのにあなたはここにいるの? しかも侯爵令嬢であるアデライト嬢と、侯爵夫人となるミレーヌにあらぬ疑いをかけるなんて」
「わ、私はただっ、王妃様方が騙されていると!」
「口答えしない!」
「ひっ!? リ、リカルド様ぁ……」
「…………」
「部屋に戻りなさい。話はまた後で」
「……はい」
王妃に叱りつけられ、リカルドに無視されるのにサブリナがたまらず俯く。そして、流石に今回はアデライトを睨まずにトボトボと退場するのを横目で見つつ。
「アデライト嬢、ごめんなさいね? 領地に帰るのなら、また日を改めて……そちらの都合を、教えてちょうだい? ぜひ、お詫びしたいわ」
「王妃様……そんな、お詫びだなんて」
「私からも、お願いしたい。今度は絶対、サブリナを近づけないから」
「リカルド様……ええ、かしこまりました」
こうして合格した上、アデライトの方が優位になった状態で次の約束まで取り付けた。
……余談だが次の日、エセルが働く新聞社の記事に『あのミレーヌ・ハルムがベレス領主の妻に』という成功物語が掲載された。
サブリナの侍女が、主人に言われてか抗議しに来たそうだが――エセルは「領地では知られている話だと、お伝えしましたし……発行前に記事の全てをバラすなんて、記者としてありえません」と、笑顔でやり込めたそうだ。領地に届いた手紙を読んだ時は、たまらず部屋で笑ってしまった。
「良い仕事をしてくれたね」
「ええ、本当に」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトは頷いた。
領地に戻る時、エルマもミレーヌのことを新聞で知ったが、アデライトが次回も王妃からお茶会に誘われたことの方が重要そうだった。彼女にとっても、ミレーヌは過去の存在なのだろう。休暇の時は領地までついてこないので、今頃は王都で羽根を伸ばしているか、次のお茶会の準備をしていると思われる。
……実は終業式の日、サブリナの様子からアデライトは今回の騒ぎが起こる可能性を予想していた。それ故、もしサブリナから接触があれば逆らわずに答えられる範囲で答え、父とミレーヌのことを記事にして良いと手紙に書いて、エセルに届けていたのである。
「……来たよ」
そして、再婚式の当日で。
式を終えたミレーヌが、教会の前でブーケを投げると――それは、アデライトの元へと飛んできた。
ノヴァーリスの声に、咄嗟に反応してブーケを受け取る。
花嫁が投げたブーケを受け取ると、次の花嫁になるという言い伝えがある為、来場者達がアデライトに優しい眼差しを向け――リカルドと結ばれたとしても祝福されるよう、アデライトは可憐に微笑むのだった。
……一回目で、王都から離れていたミレーヌは復讐対象ではない。
そんな彼女と父が結ばれたことを、アデライトは本当に喜んでいた――一回目と違う展開になったことで、父の生存率が上がると思えたからだ。
「明日、領地に戻るのが楽しみです」
「そうなの……ミレーヌに、よろしく伝えてちょうだいね? 式には間に合わないけれど、祝いの品を送らせて貰うわ」
「ああ、私からも……それにしても、君もミレーヌの教え子だとは」
「恐れ入ります」
アデライトの父と再婚することで、国王を挟んでの恋敵になることがなくなり、王妃の表情は穏やかだった。そしてリカルドは、アデライトとの思わぬ共通点に感じ入っているらしい。
アデライトが頷いたところで、王妃が一転して冷ややかな声でサブリナに話しかけた。
「……それで? 何故、呼んでもいないのにあなたはここにいるの? しかも侯爵令嬢であるアデライト嬢と、侯爵夫人となるミレーヌにあらぬ疑いをかけるなんて」
「わ、私はただっ、王妃様方が騙されていると!」
「口答えしない!」
「ひっ!? リ、リカルド様ぁ……」
「…………」
「部屋に戻りなさい。話はまた後で」
「……はい」
王妃に叱りつけられ、リカルドに無視されるのにサブリナがたまらず俯く。そして、流石に今回はアデライトを睨まずにトボトボと退場するのを横目で見つつ。
「アデライト嬢、ごめんなさいね? 領地に帰るのなら、また日を改めて……そちらの都合を、教えてちょうだい? ぜひ、お詫びしたいわ」
「王妃様……そんな、お詫びだなんて」
「私からも、お願いしたい。今度は絶対、サブリナを近づけないから」
「リカルド様……ええ、かしこまりました」
こうして合格した上、アデライトの方が優位になった状態で次の約束まで取り付けた。
……余談だが次の日、エセルが働く新聞社の記事に『あのミレーヌ・ハルムがベレス領主の妻に』という成功物語が掲載された。
サブリナの侍女が、主人に言われてか抗議しに来たそうだが――エセルは「領地では知られている話だと、お伝えしましたし……発行前に記事の全てをバラすなんて、記者としてありえません」と、笑顔でやり込めたそうだ。領地に届いた手紙を読んだ時は、たまらず部屋で笑ってしまった。
「良い仕事をしてくれたね」
「ええ、本当に」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトは頷いた。
領地に戻る時、エルマもミレーヌのことを新聞で知ったが、アデライトが次回も王妃からお茶会に誘われたことの方が重要そうだった。彼女にとっても、ミレーヌは過去の存在なのだろう。休暇の時は領地までついてこないので、今頃は王都で羽根を伸ばしているか、次のお茶会の準備をしていると思われる。
……実は終業式の日、サブリナの様子からアデライトは今回の騒ぎが起こる可能性を予想していた。それ故、もしサブリナから接触があれば逆らわずに答えられる範囲で答え、父とミレーヌのことを記事にして良いと手紙に書いて、エセルに届けていたのである。
「……来たよ」
そして、再婚式の当日で。
式を終えたミレーヌが、教会の前でブーケを投げると――それは、アデライトの元へと飛んできた。
ノヴァーリスの声に、咄嗟に反応してブーケを受け取る。
花嫁が投げたブーケを受け取ると、次の花嫁になるという言い伝えがある為、来場者達がアデライトに優しい眼差しを向け――リカルドと結ばれたとしても祝福されるよう、アデライトは可憐に微笑むのだった。