悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
偽善
巻き戻った時、アデライトは領地で輪作と二毛作を始めた。
それは収穫量を増やし、領地を豊かにして王家の目を引く為だったが――もう一つ、夏に起こる災害に備えて領地を守りたいと思ったからだ。実際、アデライトの領地も猛暑や嵐の被害を受けたが、春に収穫出来ていたので貯えがあり、王都や侯爵領以外のように食べるのにも困る状態は免れたのである。
だからアデライトはこうして一回目では出来なかった、毎週の炊き出しが出来ている。
とは言え、領民の労働の成果なので勿論、王都の民に分けていいか確認を取ったのだが――心優しい領民達は「少しでも、困っている人達の助けになれば」と快諾してくれたのだ。
それ故、一回目の時は移動の馬車に乗るくらいだったが、巻き戻った今では移動用の馬車とは別に、王都に住む者達に振る舞えるだけのパンやスープなどを乗せた荷馬車も広場に来ていた。
そして炊き出しを期待して並んだり、馬車から荷物を下ろして炊き出しを手伝う者達の前で、アデライトは笑みを絶やさず外出用のワンピースの上に、白いエプロンを身に着けた。
「聖女かぁ……すごく、君のことを褒めてくるね」
「褒めるのは、無料ですからね」
「一回目では、君を罵って石を投げたのに……今回は、食べ物を恵んでほしいから従順だね?」
「ええ、そうですね……本当に、良い家畜です」
そう、この広場は一回目でアデライトが連れられてきて、王都の民達の前で斬首された場所である。
そんな因縁の場所で、アデライトは話しかけてきたノヴァーリスにそう答え、微笑みながら毎週、炊き出しに来ている民達に施しを与え続けた。
※
そして次の日の日曜日、アデライトは王妃に呼ばれて王宮へとやって来た。
三年になり、リカルドだけではなく王妃にも可愛がられているアデライトだが、一回目のサブリナと一つだけ違うことがある。
それは一回目のアデライトと違い、サブリナが癇癪を起こすので昼食を一緒に食べていないことだ。
とは言え生徒会の手伝いなどでもリカルドと共に行動するし、王妃とのお茶会にも同席する。逆に学園での側近達の目がないので十分、リカルドとの親密度は上がっていた。
「昨日も、民達の為に炊き出しを行ったそうね……そんな中、呼び出してごめんなさいね?」
「とんでもないです、王妃様。むしろ大変な中、気にかけて頂きありがとうございます」
「まあ……本当に、あなたは謙虚で可愛らしいわね。サブリナとは大違い」
「ああ。君を真似て、炊き出しをしたみたいだが……君のように物資を揃えられず、次の約束が出来なかったから失望されたらしいし。ほとんど話題にならないと、怒っていたのも頂けない」
「全く、あの娘は……」
王妃とリカルドがサブリナの愚痴を言うのを、アデライトはにこにこ笑いながら聞き――宙に浮いたノヴァーリスが、そんなアデライト達を眺めていた。
それは収穫量を増やし、領地を豊かにして王家の目を引く為だったが――もう一つ、夏に起こる災害に備えて領地を守りたいと思ったからだ。実際、アデライトの領地も猛暑や嵐の被害を受けたが、春に収穫出来ていたので貯えがあり、王都や侯爵領以外のように食べるのにも困る状態は免れたのである。
だからアデライトはこうして一回目では出来なかった、毎週の炊き出しが出来ている。
とは言え、領民の労働の成果なので勿論、王都の民に分けていいか確認を取ったのだが――心優しい領民達は「少しでも、困っている人達の助けになれば」と快諾してくれたのだ。
それ故、一回目の時は移動の馬車に乗るくらいだったが、巻き戻った今では移動用の馬車とは別に、王都に住む者達に振る舞えるだけのパンやスープなどを乗せた荷馬車も広場に来ていた。
そして炊き出しを期待して並んだり、馬車から荷物を下ろして炊き出しを手伝う者達の前で、アデライトは笑みを絶やさず外出用のワンピースの上に、白いエプロンを身に着けた。
「聖女かぁ……すごく、君のことを褒めてくるね」
「褒めるのは、無料ですからね」
「一回目では、君を罵って石を投げたのに……今回は、食べ物を恵んでほしいから従順だね?」
「ええ、そうですね……本当に、良い家畜です」
そう、この広場は一回目でアデライトが連れられてきて、王都の民達の前で斬首された場所である。
そんな因縁の場所で、アデライトは話しかけてきたノヴァーリスにそう答え、微笑みながら毎週、炊き出しに来ている民達に施しを与え続けた。
※
そして次の日の日曜日、アデライトは王妃に呼ばれて王宮へとやって来た。
三年になり、リカルドだけではなく王妃にも可愛がられているアデライトだが、一回目のサブリナと一つだけ違うことがある。
それは一回目のアデライトと違い、サブリナが癇癪を起こすので昼食を一緒に食べていないことだ。
とは言え生徒会の手伝いなどでもリカルドと共に行動するし、王妃とのお茶会にも同席する。逆に学園での側近達の目がないので十分、リカルドとの親密度は上がっていた。
「昨日も、民達の為に炊き出しを行ったそうね……そんな中、呼び出してごめんなさいね?」
「とんでもないです、王妃様。むしろ大変な中、気にかけて頂きありがとうございます」
「まあ……本当に、あなたは謙虚で可愛らしいわね。サブリナとは大違い」
「ああ。君を真似て、炊き出しをしたみたいだが……君のように物資を揃えられず、次の約束が出来なかったから失望されたらしいし。ほとんど話題にならないと、怒っていたのも頂けない」
「全く、あの娘は……」
王妃とリカルドがサブリナの愚痴を言うのを、アデライトはにこにこ笑いながら聞き――宙に浮いたノヴァーリスが、そんなアデライト達を眺めていた。