悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
声言
……ついに、ここまで来た。
今日、アデライトは王立学園を卒業する。
今までの学校行事は制服での参加だったが、卒業パーティーは違う。時間こそ昼だが卒業し、大人になったということで卒業生は礼装姿で参加する。
そんな訳で巻き戻った今、アデライトも学生寮でエルマに手伝わせ、ドレスに身を纏っている。
青いドレスは一回目の時のように既製服ではなく、オーダーメイドだ。しかし冬期休暇の時、婚約者のいない娘の為に両親がドレスを用意すると言ってくれて、アデライトは一回目の時に近いドレスをお願いした。
巻き戻った今、復讐は当然だとしても今日、このドレスと父・ウィリアムを守ることがアデライトの目標だったが――ミレーヌが身ごもり、父を卒業パーティーに来させない理由が出来た。それでも父はアデライトのエスコートを気にかけてくれたが、一回目も一人だったし父を守る為にはそもそも卒業パーティーに参加させないのが正解だ。それ故、ミレーヌには本当に感謝している。
(これから、心配をかけるけれど……ミレーヌと、弟か妹がお父様の傍にいてくれるなら安心だわ)
声に出さずに呟いて、化粧も終えたアデライトは鏡台の椅子から立ち上がった。
一回目のサブリナと違い、節度のある付き合いを保っているが――学園内ではリカルドがサブリナではなくアデライトを想い、何かと尊重しているのは公然の秘密だ。だからアデライトが一人で行っても、惨めさは全くない。むしろ、リカルドに操を立てていると思われるだけである。
「それに、実際は一人じゃないよ……私が、いるからね」
「ええ、ありがとうございます。ノヴァーリス」
宙に浮いたまま、背後から腕を回して囁いてくるノヴァーリスに、アデライトは笑ってお礼を言った。
そして寮の部屋のドアを開け、学生寮を出るのをエルマに見送られながら、ノヴァーリスと二人で卒業パーティーの会場へと向かった。
※
新入生の歓迎会も行った、大広間。アデライトと(見えていないが)ノヴァーリスが到着すると、先に来ていたドミニクとウラリーが婚約者から離れて声をかけてきた。二人の顔からは不安ながらも期待していることが見えたので、アデライトもまた気遣うような表情を『作って』声をかけた。
「ドミニク様、ウラリー様……どうなさったの?」
「アデライト様」
「サブリナ様が殿下ではなく、ロイド伯爵様にエスコートされてきたのです」
「何か起こるのではと私達、心配で」
二人の言葉に、アデライトは驚いたように目を見開いて見せながらも内心、嗤った。どう理由をつけたかは知らないが、断罪するからこそサブリナをエスコートしなかったと気づいたからだ。
そんな彼女達の耳に、リカルドの意気揚々とした声が届いた。
「サブリナ・ロイド! 王太子である私の婚約者という地位を笠に着た暴虐、もはや看過出来ん! お前との婚約は今、この場をもって破棄とする!」
今日、アデライトは王立学園を卒業する。
今までの学校行事は制服での参加だったが、卒業パーティーは違う。時間こそ昼だが卒業し、大人になったということで卒業生は礼装姿で参加する。
そんな訳で巻き戻った今、アデライトも学生寮でエルマに手伝わせ、ドレスに身を纏っている。
青いドレスは一回目の時のように既製服ではなく、オーダーメイドだ。しかし冬期休暇の時、婚約者のいない娘の為に両親がドレスを用意すると言ってくれて、アデライトは一回目の時に近いドレスをお願いした。
巻き戻った今、復讐は当然だとしても今日、このドレスと父・ウィリアムを守ることがアデライトの目標だったが――ミレーヌが身ごもり、父を卒業パーティーに来させない理由が出来た。それでも父はアデライトのエスコートを気にかけてくれたが、一回目も一人だったし父を守る為にはそもそも卒業パーティーに参加させないのが正解だ。それ故、ミレーヌには本当に感謝している。
(これから、心配をかけるけれど……ミレーヌと、弟か妹がお父様の傍にいてくれるなら安心だわ)
声に出さずに呟いて、化粧も終えたアデライトは鏡台の椅子から立ち上がった。
一回目のサブリナと違い、節度のある付き合いを保っているが――学園内ではリカルドがサブリナではなくアデライトを想い、何かと尊重しているのは公然の秘密だ。だからアデライトが一人で行っても、惨めさは全くない。むしろ、リカルドに操を立てていると思われるだけである。
「それに、実際は一人じゃないよ……私が、いるからね」
「ええ、ありがとうございます。ノヴァーリス」
宙に浮いたまま、背後から腕を回して囁いてくるノヴァーリスに、アデライトは笑ってお礼を言った。
そして寮の部屋のドアを開け、学生寮を出るのをエルマに見送られながら、ノヴァーリスと二人で卒業パーティーの会場へと向かった。
※
新入生の歓迎会も行った、大広間。アデライトと(見えていないが)ノヴァーリスが到着すると、先に来ていたドミニクとウラリーが婚約者から離れて声をかけてきた。二人の顔からは不安ながらも期待していることが見えたので、アデライトもまた気遣うような表情を『作って』声をかけた。
「ドミニク様、ウラリー様……どうなさったの?」
「アデライト様」
「サブリナ様が殿下ではなく、ロイド伯爵様にエスコートされてきたのです」
「何か起こるのではと私達、心配で」
二人の言葉に、アデライトは驚いたように目を見開いて見せながらも内心、嗤った。どう理由をつけたかは知らないが、断罪するからこそサブリナをエスコートしなかったと気づいたからだ。
そんな彼女達の耳に、リカルドの意気揚々とした声が届いた。
「サブリナ・ロイド! 王太子である私の婚約者という地位を笠に着た暴虐、もはや看過出来ん! お前との婚約は今、この場をもって破棄とする!」