The previous night of the world revolution~T.D.~
「…それで」

セカイさんは、僕の首の凝りをほぐしながら聞いてきた。

「そんなルーチェス君は、何を勉強するの?何学部?」

「何だと思います?」

「うーん…。ルーチェス君、料理もお掃除も、色んなことが上手だもんなぁ…」

それはありがとうございます。

「そうだな…家事労働学部?」

果たしてこの国に、そんな学部は存在するのだろうか。

少なくとも、僕は聞いたことがない。

そこ卒業したら、エリート主婦になれそう。

それはそれで面白そう、とは思ったが。

「残念ながら、外れです」

「えー、違うの?じゃあ答えは?」

「美術学部です」

「えぇ!?」

「うぐっ」

驚いたセカイさんが、僕の首の骨をガシッ、と圧迫。

死ぬって。

セカイさん、そこ、大事な骨だから。

しかしこのセカイお姉ちゃん、そんなことは全く気にせず。

「び、美術!?美術って何?何するの!?爆発するの!?」

それは芸術。

「彫刻とかビジュアルデザインとか、色々専攻はありますが、僕は一応油絵専攻で入学してます」

「あ、油絵!?」

そんなに驚くようなことか。

「る、ルーチェス君…。叫ぶの…?あの、細長い顔で『あー!』みたいな顔してる絵みたいに…叫ぶの?」

「…ムンクじゃないんで、僕…」

セカイさんが、どういう勘違いをしているのかが、分かった。

「セカイさんが想像してるのは、多分抽象画なんでしょうが…。僕が描くのは、主に具象画ですから」

「ぐしょーが?」

「要するに、一般人が『これの何が良いの?』って頭を悩ますタイプの絵は描きませんってことです」

「成程」

納得頂けたようで何より。

ちなみに、僕も生まれた家柄、色々な著名画家が描いたという、素晴らしい抽象画の数々を見てきたが。

あれの何が凄いのか、全く分からなかった。

一応学芸員の手前、「良い絵ですね〜」とかお世辞は言ってたが。

内心、「こんなん僕でも描けるじゃん。ってか幼稚園児が描いたのこれ?」とか思ってた。

罰当たりで申し訳ないが。

ああいう抽象画っていうのは、見る人が見れば、「これは素晴らしい!」ってなるんだろうけど。

分からない人が見たら、本当に訳が分からないからな。

芸術的センスというのは、難しいものだ。

なかなか、育てて身につくものでもないしな。

とはいえ一応、講義一覧の中に、抽象画の講義も混じっていたから。

触る程度には、抽象画も描かされる可能性はあるが…。

まぁ、それはそのとき考えれば良い。
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