The previous night of the world revolution~T.D.~
しかし。

それでもセカイさんは、上手く腑に落ちないようで。

「何で美術なの?ルーチェス君、大丈夫?」

「頭がってことですか?」

頭の方は、いつだって冷静で、正気なつもりなのだが。

「そうじゃなくて〜!美術の他に選択肢はなかったの?」

「色々ありましたよ」

私立ローゼリア学園大学には、様々な学部、学科が存在する。

ぶっちゃけ、僕の無駄に鍛え上げられた学力があれば。

大体、何処でも入学試験は余裕だったと思う。

「じゃあ、何で美術?」

「いや、競争率って言うか、倍率低いかなと思って…。実際は全然低くなくて、むしろ他学部より倍率高くて、思わず笑っちゃったんですが」

皆、そこまでして美術学部に入りたかったのか。

ごめんね。僕は別に、スパイ目的で入学しただけで、真剣に美術の勉強がしたかった訳じゃなかったのに。

僕が入っちゃったせいで、真剣に美術の勉強がしたくて受験した人が、一人落ちてしまった。

それは申し訳ないが、でもこの問題は、どの学部に入っても同じことだし。

ローゼリア学園大学を受けるほどの学生なら、他の大学を滑り止めに受けてるはずだから。

そっちで頑張ってくれ。

「ルーチェス君って、絵、描けるの?」

なかなか核心を突いた質問だな。

「…まぁ、得意か得意じゃないかで聞かれると、得意ではないですね」

「大丈夫なの!?それで」

「入学出来たんだから、大丈夫なんじゃないですか?」

「そういう美術の大学って、入学試験のときに実技試験とかないの?」

「あぁ、はい。ありましたよ」

実技試験ね。やらされましたよ。

「何したの?実技って」

「得意分野に合わせて、何種類か受験項目を選べたんですが、僕はスタンダードに、鉛筆でデッサン描いて入学しました」

あとは、普通の大学と同じように。

入学試験と、あと面接。そして小論文も書かされたっけ。

面倒だったが、無事入学出来たので結果オーライ。

「デッサン…?鉛筆で?絵の具じゃなくて?」

「はい」

「でも、鉛筆って黒しか描けないじゃない。黒だけで描くって、難しくない?」

「いや、同じ黒でも、濃淡をつけることで色彩感が増してですね?」

「うん、分かんない!ルーチェス君、描いてみせて」

そう言って。

セカイさんは、大きめのメモ用紙とシャーペンを持ってきた。

いや、鉛筆じゃないと難しいんですが?

まぁ、別に良いけどさ。入学試験はもう済んだんだし。

「はい、これにどうぞ」

「…何描けば良いんですか?」

モチーフが目の前にないことには、始まらない。

「そうだなー、じゃあ…そうだっ、私の顔描いて!似顔絵!」

「似顔絵…。人の顔描くの、僕苦手なんですが…」

「何をぅ!未来の画家さんが、描くものを選り好みしちゃいけません!」

僕、画家になる為に美術学部に入学した訳じゃないんですが。

まぁ良い。

小手調べに、セカイさんの似顔絵でも描いてみるとしよう。

…シャーペンで。
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