The previous night of the world revolution~T.D.~
5分後。

「もう出来た?」

「…いや、早過ぎるでしょ…」

まだ輪郭の部分なんですけど。

更にしばし待つこと。

15分後。

「もう出来たんじゃない?」

「だから、早いですって…」

「も〜。長いよー」

「…」

なんか、僕が悪いみたいになってるが。

いかに簡単なデッサンと言えど、普通一時間単位でかかるよな?

実際、入学試験のときに受けた実技試験は、制限時間2時間だったし。

それでも、短い方だと思ってたのに。

まさか15分で口を尖らせられるとは。

その、口が尖った似顔絵を描いて良いですかね。

更に15分後。

「…さすがにもう出来たでしょ?」

「…」

今、目の輪郭描いてるところなんですけど。

「…のっぺらぼうで良いなら、出来ましたけど」

「遅いよ〜。そんな遅くて、よく美大受かったねルーチェス君」

「…」

じっとしていられない系モチーフ、セカイさん。

「それにしても、何で美術学部選んだの?」

それ、さっきも聞かなかった?

多分、暇だから聞いてるんだろう。

「まぁ、別にどの学部でも良かったんですが…」

僕は、描きながら答えた。

セカイさんが急かすので、巻きで行こう。

「ほら、僕昔、王子だったことあるじゃないですか」

「あ〜、まだルーチェス君が、可愛いチェリーボーイだったときね〜?」

「そうそう、そんなとき」

若干嫌な思い出し方だが。

「そのときにですねー、王族の嗜みの一環として、美術を習わされたことがあって」

「えー。そんなこともしてたの?」

「色々やってましたよ」

趣味と名のつくものなら、大抵のことは。

その中に、当然絵画もあった。

「まー、今となってはそんな謎特技、無用の長物ですからね。今回活かせる機会がたまたまあったから、活かしてみようかなぁと思っただけで」

「そっかぁ…。椅子に座ってふんぞり返ってるだけかと思ってたけど、王子様も意外と大変なんだね」

僕、椅子に座ってふんぞり返ってるだけだと思われてたの?

それは大きな誤解だなぁ。

「高貴な生まれってだけで羨ましがられがちですが、貴族も王族も、これで結構大変なんですよ。生まれたときから、自分の意見なんて持たされずに、『王族たる者』としての役目を叩き込まれて」

「…」

「彼らに必要なのはルーチェスという人間じゃなくて、ベルガモット王家の血を継ぐ『正しい王子』だったんです。別に僕である必要はなかったんですよ」  

僕個人が望まれていたのではない。

ベルガモット王家の血を継ぎ、ベルガモット王家に従順な王子であれば、誰でも良かった。

だからまぁ、毎日のように面倒な授業や習い事や稽古や…ほぼ休む暇なく毎日教え込まれ。

不満を言うことは許されず。

ただひたすら、王家の奴隷のように生きていた。

全く、奴隷のような王子って何だよ。

「…そっかぁ…。ルーチェス君も、ルーチェス君なりに、結構ハードな人生送ってたんだね」

「セカイさんほどじゃありませんけどね」

ついでに言うと、ルレイア師匠のハードな人生とは、比べ物にならない。

『青薔薇連合会』の皆さんは、大抵そうだ。

「…なんて言ってるうちに、出来ました」

「おっ、やっと出来た?」

所要時間は、約一時間程度。

デッサンとしては、鼻で笑われる代物だが。

この限られた時間で書いた割には、そこそこの出来だと思う。
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