The previous night of the world revolution~T.D.~
こればかりは多分、面接の質問項目にあった訳ではなく。

単に、面接官が気になったから聞いてきたんだろうけど。

面接終盤になって、不意に面接官に聞かれた。

「その仮面はどうしたんですか?」

「…」

先程までの質問には、ほぼ即答してきた俺だったが。

こればかりは、ちょっと考えてしまった。

まさか、仮面についてツッコまれるとは。

どうしたんですか、って何だ。まるで仮面をつけている俺がおかしいみたいじゃないか。

むしろ俺が聞きたい。

「何であなた方は、仮面をつけてないんですか?」と。

しかし、面接において、質問を質問で返すのはタブーの一つ。

仕方なく、俺は何と返事をするか考えた。

選択肢は三つ。

まず一つ目。「これは俺のアイデンティティです」。

事実だな。一番正直な答え。

次に二つ目。「傷があるので、隠してるんです」。

真っ赤な嘘だが、無難な答え。

最後に三つ目。「この仮面を外したら、俺の顔が爆発するんです」。

…まぁこれも事実みたいなものだ。

さて、どの選択肢を取るか。

一つ目の選択肢は、本音ではあるのだが…。

共産主義団体に所属する以上、アイデンティティは共産主義思想でなければ、模範的なコミュニストであるとは言えない。

よって、一つ目の選択肢は却下。

次、二つ目の選択肢。

顔に傷があると言えば、大抵の人は、それ以上は何も聞かないでくれるだろう。

しかしこれは真っ赤な嘘なので、もし何かあって仮面を外すことがあったら(そんなことはないと信じたいが)。

「あれ?傷ないじゃん」とバレてしまう可能性がある。

スパイとして潜入にする上で、組織の人間に嘘をつくのは避けた方がいい。

それに、相手は皆平等がモットーの共産主義団体。

「傷なんて気にしないでください。ここでは皆平等ですから」とでも言われたら、外さずにはいられないからな。

二つ目の選択肢も、却下。

で、残る選択肢は…。

「…実は俺、この仮面を外したら」

「…外したら?」

「…顔面が爆発するんです」

「…」

面接官は、ポカーンとしていたが。

俺があまりにも、真剣な顔で言うものだから。

「ば、ばく…は、はぁ。そうですか」

そう言ったきり、それ以上は何も聞かれなかった。

やはり、嘘をつくのは良くない。

正直に本当のことを言えば、大抵のことは乗り越えられるものだ。
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