The previous night of the world revolution~T.D.~
…これが。

彼が。

帝国騎士団が警戒して、『青薔薇連合会』に協力を嘆願するほどに危険視していた、共産主義団体の党首。

こんな青年が。

ルレイア先輩じゃないが、それこそ大学に通っていてもおかしくないような、若い青年が。

俺は、品定めをするように彼を見つめた。

別にバレても構わない。

向こうもまた、俺を値踏みするかのような目で見ていたから。

しばらく、お互いの顔を見つめた後。

ヒイラと名乗った彼は、何事もなかったかのように聞いてきた。

「それ、何?その仮面」

皆して、気になるのはそこなのか。

あまりにも格好良いから、羨ましいのかもしれない。

「外したら爆発するんです」

「はは!面接のときにも言ってたな、それ」

…面接。

あの面接のとき、この人は部屋の中にはいなかったはずだが。

すると。

そんな俺の内心を読んだかのように、彼は言った。

「あの面接、全員録音してあるんだ。だからそれで聞いた」

そういうことだったか。

まぁ、今時スマートフォン一台で、簡単に盗聴可能だからな。

驚くべきことではない。

それより。

「あなたが、この『帝国の光』の党首なんですか」

「そうだよ。正真正銘…俺が『帝国の光』の党首だ。大変だよ。お陰で、誰かに会えば、ああやって敬礼される。俺は別に、敬われたい訳ではないんだけどなぁ」

「…」

「俺のことは別に、名前で呼んでくれて構わないからな。敬語も必要ない。堅苦しくて仕方ないからな」

にこり、と笑顔でそう言う彼は。

確かに、好感を持てる青年なのだが。

忘れてはいけない。

彼の横にある鉄格子の中では、今でも断末魔のような叫び声があがっているのだ。

そしてそれを止めない辺り、指示したのはこの男なのだろう。

そんな人間に、無警戒に好感を抱く訳がない。

「じゃあ…ヒイラ総統」

「結局総統って呼ぶのか?」

「俺をここに呼び出した理由を、聞かせてもらいたい」

「うん、まぁ呼び方なんてどうでも良いか…。そうだな、俺はそれを、お前に話しに来たんだよ」

それはそれは。

「これだよ」

そして、そのときになってようやく。

ヒイラ総統は、ずっと無視していた、拷問部屋を指差した。

そこでは、爪を剥がされ、その指に一本ずつ釘を刺されている、憐れな二人の人間がいた。

忘れていた訳ではなかったらしい。

「これが何だか、分かるか?」

「あぁ。拷問を受けてるな」

「そうだ。何で彼らが拷問を受けてると思う?」

「組織によって拷問を受けてるってことは、その組織に害するような行為をしたからだろう?」

「その通り。でも、もっと具体的に言えば?」

具体的に?

「そうだな…。『帝国の光』の思想に反対したとか、党の金を横領したとか…」

「はは、確かに、それも拷問対象だな」

そうなのか。気をつけるよ。

「でも、大事なことを忘れてるぞ」

「大事なこと?」

「党の活動や、党員の発言を…党以外の人間に密告すること。党員として、最も重い罪だ」

「…」

ヒイラ総統の目は、憎悪に染まっていた。

憎悪と、そして脅しだ。

「こいつらは、党の活動を勝手にSNSに載せたんだ。写真付きでね。勿論すぐに消させたから、それほど流出はしてないはずだけど」

そうなのか。

後で調べた方が…いや、これすら、俺を試す試験なのかもしれない。

そう、これは試験なのだ。

そして、こうして残酷な拷問を見せ、党を裏切ったらお前はこんな目に遭うのだ、と見せつける為の…脅しも兼ねている。

一般人なら戦慄するだろうが、如何せん俺はマフィアなんでね。

これくらいは日常茶飯事で、特に驚くようなことも、怯えるようなことでもない。
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