The previous night of the world revolution~T.D.~
「確かに、党の秘密を勝手に流出させるのは、許されざる罪だな」

「だろう?」

当然のことのように言うヒイラ総統。

マフィアでも、意図的な情報の漏出は罪に問われるからな。拷問を受けさせるのは良いとして。

俺が気になるのは、その後だ。

「この二人は、この後どうするんだ?」

これがマフィアだったら、拷問した後そのまま射殺だ。

で、『帝国の光』では、拷問にかけた党員を、その後どうする?

「二人には、更生してもらうことになる」

「…更生?」

「今一度、『帝国の光』党員として相応しい人間になるよう、改心してもらうんだよ」

…笑顔で、とんでもないことを言う。

つまり洗脳し直すってことだな。

やっていることは、憲兵局のそれと変わりない。

「成程、それは必要なことだな」

「分かってくれて嬉しいよ」

俺は分かりたくなかったけどな。

すると。

ヒイラ総統が、冷たい笑顔を俺に向けた。

「…それで君は、彼らのような馬鹿なことはしないよな?」

「…」

…その眼差しは。

信頼しているはずの同志に対する、それではなかった。

完全に、俺を疑ってかかっていた。

だが、俺は狼狽えなかった。

こんなものは、ただの首実験みたいなものだ。

単なるカマかけと思っても良い。

俺が本当に、忠実な『帝国の光』党員であることを、確かめようとしている過ぎない。

大体、本当にこの時点で俺がスパイだとバレているなら。

既に俺は、拷問されている彼らの三人目として、鉄格子の中に仲間入りしてるだろう。

だから、俺は淡々と答えれば良い。

「どうやら俺は、『帝国の光』への忠誠心を疑われているようだな」

俺は、不満さえ交えてそう言い返した。

「俺はルティス帝国と、この『帝国の光』に身命を懸けるつもりでここにいる。そんな下らない質問をされに来た訳じゃない」

「…」

「尋問は終わりか?ヒイラ総統。これ以上、俺が忠誠心を示すのに言葉が必要なのか」

「…ふふ、ははは」

総統は、笑った。

今度は、心からの笑みだった。

「そうか。悪かったな、でも気を悪くしないでくれ。これは『裏党』に入る為の、通過儀礼みたいなものなんだ」

「『裏党』?」

「そう。君の…いや、君達新人の適性試験の結果は、俺も全部見させてもらった。その中で君だけは、ずば抜けて素質があると判断した。稀に見る逸材だよ」

お褒めに預かり光栄だな。

あまり褒められたい相手ではないが。

「そこで、君には『裏党』に入ってもらうことにした。これは、その通過儀礼なんだよ」

「その『裏党』とやらについての、説明がもらいたいな」

「あぁ、良いとも。勿論説明するよ。君は見事通過儀礼を終えたんだから」

一歩、足を踏み出す度に。

俺は、猛獣の檻の中に近づいている気がした。
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