The previous night of the world revolution~T.D.~
部屋の中にいた党員達は、ヒイラ総統の姿を認めるなり、立ち上がって敬礼した。

何処の軍隊だ?

「皆、聞いてくれ。今日は、新しい党員が増えたんだ」

ヒイラ総統は、明るい声でそう言い、俺に向かって振り返った。

「さぁ、中に入って。皆に自己紹介してくれないか」

「…」

俺は一歩前に出て、広々とした…そして、何処か殺伐とした大会議室に入った。

まさに、猛獣の餌箱の中だな。

そして俺は、自分を食らうことになるかもしれない、猛獣達の姿を見た。

彼らの目は、真っ直ぐに俺を見ていた。

全員がお揃いの、紺色の制服を身に着け。

襟首に、赤い星のピンをつけていた。

本当に軍隊のようだ。

…。

俺は敢えて、先程から感じていた疑問を口にすることにした。

「…自己紹介の前に、聞きたいことがある。ヒイラ総統」

「ん?何だ?」

こんなことを口にするのは、自らを危険に晒すのも同然。

しかし、この状況を甘んじて受け入れる。

それは、真のコミュニストとは言えない。

だから聞く。

「『帝国の光』の党員は、皆平等だと聞いた。それなのに、俺と同じように入党した新人達は、四階までしか行けず、こんな制服も着ることは出来ない。これの何処が平等なんだ?」

「…!」

ヒイラも、他の党員達も。

驚愕に目を開いていた。

そんな簡単なことも思いつかなかったのか?

さぁ、どんな反応が返ってくることやら。

「貴様!総統に向かって無礼な!」とか。

「打ち首拷問だ!地下室に連れて行け!」とか。

そう言われたら、俺は真っ先に、そこの窓ガラスを割って、外に飛び出して逃げよう。

え?八階から飛び降りたら死ぬだろうって?

『青薔薇連合会』に単身乗り込んで生還し、そしてシェルドニア王国で主人公顔負けの活躍をした、この俺が。

今更、八階から飛び降りたくらいで死ぬとでも?

百階だったら危ない。

が、八階なら余裕。

手首に仕込ませた、鉤爪付きのワイヤーをそっと撫でて、俺は心の中で離脱準備を整えた。

さて、どんな反応をするか…。

「…良い質問だな」

…幸いなことに。

ヒイラ総統含め、激怒する党員はいなかった。
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