The previous night of the world revolution~T.D.~
「…幻滅したか?」

ハンバーグを食べながら、ふと思い出したように総統が言った。

「何に?」

「食べに行こうって、こっちから誘ったのに、ファミレスかよって」

「いや…別に」

ちょっと思ったけど、あくまで気にしてない振りを装う。

が、

「ごめんな、分かってるんだけど。でも『帝国の光』も、そんなに資金が潤沢にある訳じゃないし。無駄遣いする訳にはいかないからな」

「…」

そうだな。

平等主義を掲げる彼らが、贅沢にフレンチフルコースなんて食べてたら、ダブスタも良いところ。

「…それにさ」

「?」

「恥ずかしい話かもしれないけど、俺、昔からファミレスのハンバーグが大好きだったんだよ」

小さい頃から、部活帰りの高校生だった訳か。

「好きだったと言うか…憧れてた、の方が正しいかな」

「憧れてた…?」

「はは、おかしいだろ?ファミレスのハンバーグが憧れって。でも、俺が生まれたのは地方の貧しい都市で、家も貧乏だったんだ」

唐突に、総統の昔語りが始まった。

ここは黙って聞くべきだな。

何なら録音しておこうと、俺はこっそり自作して、ポケットに仕込ませてきた、

『これであなたも名探偵★いつでも何処でも盗聴器』のスイッチを押した。

え?何でそんなもの持ち歩いてるのかって?

スパイのたしなみだろ。

バッテリーの持ちが12時間しかないので、必要なときしか使えないのが欠点だな。

改良の余地ありだ。

それはともかく。

「うちは自営業…って言えば聞こえは良いけど、便利屋みたいなことをして日銭を稼いでたんだ。家はボロいバラックみたいなところで、車なんて当然持ってなくて、ガラクタ同然の自転車だけが、唯一の移動手段だったな」

「…そうなのか。大変だったな」

「そう、大変だった。だから、たま〜に、年に一回か二回くらいだな。何かの記念日に、ファミレスに連れてってもらって、そこでハンバーグ食べさせてもらうのが、凄い楽しみだった。今みたいに、ドリンクバーまで頼む余裕はなかったけど」

セットについてるドリンクバーなんて、ほんの数百円なんだけどな。

世の中には、そのほんの数百円さえ、惜しまなければならない人々がいるのだ。

幸いなことに、俺はそういう生活とは無縁だったが。

でも、そういう人がいるということは知っている。

「だけど、それも十歳になるまでのことだった」

「…?どういう意味だ?」

「母親が死んだんだ」

…さっきまでも、かなりヘビーな話だったが。

「死」というワードが出てきて、更に話が重くなってきた。
< 173 / 820 >

この作品をシェア

pagetop