The previous night of the world revolution~T.D.~
「それまで俺は一人っ子でさ。ずっと弟か妹が欲しかった。だから母親が妊娠したときは凄く嬉しくて。でも、出産が上手く行かなった」

「…」

「臨月のときにさ、母親がいきなりお腹が痛いって言い出して、その後すぐに大量に出血が始まって。誰の目から見てもヤバいのは明らかだったのに、近くの病院は受け入れてくれなかった」

…そうか。

「…それは、総統の家が…貧しかったから?」

「そう。その通り」

ヒイラ総統は、乾いた笑みで言った。

「父親が、オンボロの自転車に乗ってあちこち病院を回ったけど、行く先々で断られたよ」

気の毒な話だ。

これが普通の、通常分娩だったなら、すぐに受け入れてもらえたのだろうが。

病院側も手を焼くような、神経を使う妊婦の扱いは、手に余ると思ったのだろう。

それに、通常分娩以外の費用と、特別な施術も必要になる。

そんな施術が実施出来る病院も、限られているだろうし。

病院の方針にもよるだろうが…彼の住んでいる近辺の産婦人科医院は、金を払えそうもない貧乏人の夫婦など、門前払いしてしまったのだ。

…。

…ルレイア先輩なら、「そもそも貧乏人の癖に、ガキ製造するのが悪いんですよ」とか言いそうだな。

俺もちょっとそう思ったが、しかし世の中には、貧乏人の子沢山ということわざがあってな?

総統の家も、そのご多分に漏れなかったのだろう。

子沢山と言っても、二人だが。

「ようやく受け入れてくれる病院が見つかって、手術したときには…もう、ほとんど手遅れに近い状態だった」

手遅れではなかったんだな。

「母も赤ん坊も…あ、妹だったんだけどな。かろうじて生き延びた。かろうじて、な…」

「…それから、どうなったんだ?」

「母親は、妹を産んで一ヶ月で死んだ。色々手は尽くしたけど…。結局…」

そうか。

「妹はもう少し生きたよ。あと一週間生きてれば、一歳になれたのに」

「…」

ドラマみたいなヘビーな展開に、さすがの俺も相槌に困る。

いきなり、ほぼ初対面の人に、こんなヘビーな過去の話をされると。

反応に困るよな。

慰めれば良いのか、同情して良いものか、何も言わないのが正解なのか…。

こればかりは、人によるとしか言えない。

「母親も妹も、もっとちゃんとした病院で、適切な処置を受けていれば、死ぬことはなかった。俺が貧乏じゃなかったら、生きていられたはずの命だった」

「…」

「それでも、二人の病院代を負担するのは、うちには手に負えないくらい大変だった。その頃にはもう、ファミレスのハンバーグなんて、夢のまた夢だったよ」

ヒイラ総統は、乾いた笑顔で、冷めたハンバーグを見下ろした。

「ありとあらゆることをして、母と妹を生かす為に必死だった父は、二人の死に耐えられなかった。結局妹が死んですぐ、父親も自殺した」

あまりの話の重さに、もしかして作り話なのでは疑惑が浮上。
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