The previous night of the world revolution~T.D.~
…まぁ。

俺の仮面の目を通して見れば、彼が嘘をついていないことは明白で。

この話は紛れもなく、彼の歩んできた人生そのものだと分かるのだが。

出来れば、作り話だと思いたかったよ。

世の中、つまらない不幸な話なんて、いくらでも溢れているものだな。

裏社会に入って、つくづくそれを実感する。

彼らの話に比べたら、俺の体験談なんて、丸めたちり紙みたいなものだ。

「…それが理由で、『帝国の光』を作ったのか」

「…と言うよりは、それが理由で、『天の光教』に入信したんだ」

あぁ、そうだっけ。

『帝国の光』は、『天の光教』の残党組織なんだった。

「正直なところ、神様にはあんまり興味がなかった。神様なんてものが本当にいるなら、俺の家族があんな理不尽な目に遭うことはなかったはずだから」

って、元信者に言われてるぞ、ルチカ教祖。

「でも人を愛することとか、隣人を大切にすることとか…。それから、あの人が掲げてた、王制や貴族制の廃止、帝国騎士団の独裁打破…。あれらの思想には、素直に賛同してた」

「…」

「それなのに、結局『天の光教』はあんなことになって…。教祖も逮捕されちゃって…」

その件では…。

…お世話になりました。

彼は、ルチカ教祖が自爆テロを仕掛けようとしていたことを、知っているのだろうか?

見たところ、『天の光教』に対する信仰心はさほどなかったようだし。

果たして、あの自爆ビル現場に、ヒイラ総統はいたのか…。

「教祖が逮捕されたとき…どう思った?」

ちょっと探りを入れてみる。

「時間の問題だとは思ってたよ。帝国騎士団は、明らかに『天の光教』を目の敵にしてた。教祖は、抵抗せずに帝国騎士団に捕まる気でいた。その覚悟は立派なものだと思ったよ」

「…そうか」

抵抗どころか、最後に大爆発するつもりだったみたいだけど。

それは知らなかったのか?

「『天の光教』はなくなった。『天の光教』だった信者達もバラバラにされた。でも、その教義だけは失われてない」

「…」

「ルティス帝国が、ルチカ教祖の言うような国だったとしたら、俺の家族は死なずに済んだ。そのとき思ったんだ。これから先生まれてくる子供達が、俺と同じ思いをするかもしれないって。そんな不幸の連鎖を、繰り返しちゃいけないんだ」

…偉いな。

英雄的思考だ。

自分の不幸に嘆くのではなく、この不幸を繰り返さない為に、行動を起こそうとする。

常人に出来ることではない。

かと言って、俺は自分の不幸に嘆き、復讐という道を選んで立ち上がったルレイア先輩のことを、侮辱するつもりはない。

正しいことだけをする人生が、必ずしも正しい生き方であるとは思わない。

正しい生き方なんてない。

正しさとは、人の数だけあるものなのだから。

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