The previous night of the world revolution~T.D.~
「俺は不幸の連鎖を止める。もう二度と、俺や、俺の家族のような目に遭うことがないように」

「…」

「俺だけじゃない。『帝国の光』には、今の帝国政府のせいで不幸な目に遭った党員達が、大勢いるんだ」

へぇ。

「…そうか。…何となく、その気持ちは分かるな」

俺は、わざと悲しげな顔をしてみせた。

ここは売り込みポイントだと思ったからだ。

「同志ルニキスにも…何か?」

「…あぁ…」

「…嫌でなければ、話してくれないか。同志ルニキスは、どうして『帝国の光』に?」

普通なら、そこは聞かないべきだろう。

だが、今回は聞いてもらわなければ困る。

俺が歩んできた人生を。

貴族に生まれて、兄に疎まれて、帝国騎士官学校への入学を阻止され。

仕方なく裏社会に入って、友人とマフィアを立ち上げ…なんて。

本当のことは、口が裂けても言えないので。

俺は、『帝国の光』に潜入するに当たって考えてきた、正真正銘の作り話をすることにした。

「俺は…俺も地方の生まれで、まぁ…裕福ではなかった。多分…ヒイラ総統ほどではないと思うけど…」

「…うん」

「俺も兄弟がいなくて、近所には歳の近い子もいなかったから、遊び相手がいなくてつまらなかったよ。ゲームや漫画みたいな贅沢品は、到底買えなかったし」

「あぁ、分かる。ゲームなんて、夢のまた夢だったな。触ったこともなかったよ」

実は本当の俺も、裏社会に入るまでは、ゲームなんて触ったことはなかった。

帝国騎士になる為に、毎日稽古やら勉強やらで忙しかったからな。

「だから俺の娯楽は、近所にある小さい図書館だけだった。うちは両親の仲が悪くて、家の中はいつもギスギスしてたから。ずっと図書館に入り浸ってたよ」

「そうなのか…」

家族仲が悪かったのは、事実だな。

家の中がギスギスしまくってたのも、事実だ。

「そこで本を読んでた。手当り次第、何でも。小さい図書館だったから、ジャンルなんて選んでられなかったよ」

「それで、君はそんなに頭が良いんだな」

「ありがとう。でも…それだけだったんだ。本ばかり読んでいたお陰か、頭だけは人より良くて。地元の田舎学校ではあったけど、高校まではずーっと、学年で一番の成績だったよ」

「…!それは凄いな」

真っ赤な嘘だけどな。

「いや、大した自慢にはならないよ。一学年の人数が、そもそも少なかったし」

「それでも凄いだろ。俺は学校の成績なんて、精々中の上程度が精一杯だったよ」

中の上なら良い方だろ。

それはともかく。

ここからが、この作り話の真打ちだ。
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