The previous night of the world revolution~T.D.~
「貴族の体面として、浪人なんてさせたくなかったんだろうよ。それに学費免除枠で入学したことにすれば、それだけ自分の息子は優秀だって証明になるからな」

「そんな理由で…そんな身勝手な理由で?同志ルニキスは入学取り消しにされたのか?」

「あぁ、駄目だった。もう上京もしてるし、住むところも見つけてるのにって。抗議したけど、全然取り合ってもらえなかった。大学の事務局も、その貴族に脅されてたか…あるいは、金を握らされてたのかもしれない」

「…!」

ごめんな、存在しないその大学の事務員さん。

勝手に悪者にしてしまった。

「別の大学には…?」

「無理だったよ。何せギリギリになって通知が来たんだ。そのときにはもう、入学式まであと三日もなかった。他の大学なんて、とっくに試験は終わってたよ」

浪人確定、って訳だな。

しかし。

「大学に行きたかったら、浪人するしかない。でも俺には、予備校に行く金もなかった。そもそも、大学の方が学費の全額免除と、生活費の援助もしてくれることになってたから、あのときの俺は、ほぼ無一文だったんだよ」

「…」

「上京するに当たっての支度金も、親からの借金だったし。今更『入学取り消されたから帰ります』なんて言えない。とにかく、その日その日を生きていくのに必死だった。昼も夜もバイト三昧の毎日だったよ」

作り話なのだが、自分でも、語っていて悲しくなってくる。

本当にこんな人がいたら、心から同情するよ。

だが、現状貴族制度がある今、もしかしたら俺が今話している作り話は、あながちフィクションではないかもしれない。

俺が知らないだけで、この作り話と同じ運命を辿った人がいるのかもしれない。

ルティス帝国は広いからな。有り得る。

「惨めだったなぁ。駅のコンビニのレジに立って、眺めてた。大学生が毎朝、おにぎりやジュースを買って、友達と連れ立って…。この人達は、これから大学に勉強しに行くんだって思うと、本当に惨めで…」

「同志ルニキス…」

「夜は居酒屋と、それからカラオケの夜勤バイトもしてたな。そこにも、よく学生がグループで来て、楽しそうにしてて…。俺もあと少し、例の貴族の気まぐれがなければ、あのグループの中に入れてたかもしれないのに」

そんな光景見たくないなら、そもそもそんなところでバイトすんなよ、って思われるかもしれないが。

俺もそう思う。

でも、その方が、より悲愴感が増すだろう?

だから、そういうことにしておくのだ。

「片や俺は、毎日休みなくバイトばっかりで、親に金を返して、あとは毎月々の家賃と食費の為に、絵に描いたような貧乏フリーター生活だったよ。あのとき俺が借りてたアパート、大学指定のアパートで、結構家賃高かったから」

「…」

「でも、引っ越すにも金がかかるし。親に上京費用を返した後は、今度は引っ越し費用の貯金だよ。今でこそ安いアパートに引っ越して、そこそこ割の良いバイト見つけて、何とか生活も安定してきた。貧乏なのは…相変わらずだけどな」

以上。

前半はちょっと本当だったけど、後半はほぼ全て嘘の、ルニキス・エリステラの人生譚でした。
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