The previous night of the world revolution~T.D.~
そもそもルリシヤとの情報伝達は、彼の潜伏先で、直接対面で行う予定だったはずだ。

実際俺は、今から彼の潜伏先に向かう途中だった。

ルリシヤだけは、電話やメールでの連絡は、盗聴や漏出の恐れがある為、原則行わないという約束だった。

それなのに、ルリシヤは危険を犯してまで、電話をかけてきた。

それは間違いなく、俺達の想定外の事態が起きたということだ。

ルリシヤは無事なのか。今何処に…って、それはカラオケなんだけど。

何処のカラオケだ?

そもそも、帝都にいるのか?

「ルリシヤ、お前無事なのか?」

まず最初に、俺はそう聞いた。

それだけが第一に心配だった。

もし彼に身の危険があるのなら、今すぐに『青薔薇連合会』に連絡して、ルリシヤを助けに行くつもりだった。

しかし。

『この通り無事だ。この後新曲歌って、見事90点以上取って帰ろうと思ってる』

無事なんだな。良かった。

ついでに、軽口を叩く余裕もあるらしい。

まぁ、あいつはいかなる状況でも、大体軽口叩いてるから、それでも安心は出来ない。

何なら、爆弾付き手錠を嵌められ、鉄格子の中に閉じ込められても、一分足らずで脱獄した男だからな。

その点では安心感が湧くが、それ故に、ちゃんと引き際というものを弁えているのか、心配になる。

「何処にいる?」

『カラオケ』

「それは知ってる。帝都にいるのか?」

『あぁ。ルレイア先輩がよく脅す店員がいる、あのカラオケ店だ』

成程、よく分かった。

あの店員さんには、毎度毎度、本当にご迷惑をお掛けして申し訳ない。

「それで、俺は何をすれば良い?合流した方が良いか?」

「合流してくれ」と言われる方が良かった。

ちゃんと対面で、彼の無事を確かめて話したかったから。

しかし。

『それは駄目だ、来ないでくれ』

俺は、心の中で舌打ちした。

つまり、会いに行ったら危険だってことだ。

更に。

『俺の潜伏先も、この後破棄する。だから、そこにももう来ないでくれ』

何だって?

潜伏先の破棄?

「まさか、罠が仕掛けられてたのか?」

ルリシヤのことだ。盗聴器やカメラの類は、瞬時に見抜くだろう。

まさか、『帝国の光』があらかじめルリシヤの潜伏先を把握していた、なんてことは…。

『いや、単なる用心だ。ルルシー先輩、狼狽えてるのは分かるが、端的に状況を話すから、落ち着いて聞いてくれ』

「…分かった」

俺は、一つ深呼吸をして落ち着いた。

『frontier』の爆音に負けないよう、ルリシヤの一言一句を聞き漏らさないように。
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