The previous night of the world revolution~T.D.~
『まず、『帝国の光』への潜入は成功した。党首にも会った。党首の名はヒイラ・ディートハット。元『天の光教』の信者だ。記憶してくれ』

分かった。

心の中で、俺はその名前を反芻した。

『それから、俺は『帝国の光』の『裏党』への潜入に成功した』

…『裏党』?

何だそれは。帝国騎士団からの事前情報には、そんな名前はなかったぞ。

『どうやら『帝国の光』は、新人が入党してすぐ、全員に適性試験を行うらしい。大勢はそこで『表党』と呼ばれる、『帝国の光』でも宣伝用の共産主義者として扱われるらしい』

つまり、『帝国の光』の内部でも、表と裏があるってことか。

じゃあ、ルリシヤが潜入したのは…。

『適性試験で、特別優秀だと判断された者は、『裏党』に入ることを許される。俺も晴れて、そこの党員に抜擢された。入党早々大出世だな』

何が大出世だ、この馬鹿!と。

叫びたくなったのを、俺は必死に堪えた。

何だって、そんな危険な組織の、敢えて危険なグループに、自ら入り込んだんだ。

まずは、少しでも安全そうな『表党』とやらに入って、様子見をすれば良いものを。

虎穴に入らずんば虎子を得ず、とは言うが。

お前が入った穴に住んでるのは、虎どころじゃない、怪物であるかもしれないんだぞ。

『ちなみに、面接時に仮面のことを聞かれたから、これは外すと爆発すると言って、難を凌いだ』

その情報は要らん。

連中はそれを信じたのか?

『その後、党首のヒイラ・ディートハットと直接話した。彼が『帝国の光』を起ち上げた理由も。この詳細に関しては、後でメールにして送る。くれぐれも漏出に注意してくれ』

当たり前だ。

死んでも、そんなミスは犯さないと約束する。

『俺はこれから、『帝国の光』が用意したアパートに…要するに社員寮だな。そこに移ることになる。そこの住所も添付するが、やはり危険だから、そこには来ないでくれ』

今のお前の状況の方が、よっぽど危険だ。馬鹿。

『以降、俺との連絡は原則、俺からの一方通行とさせて欲しい。確実に安全だと確認出来たときだけ、現状を報告する』

「…こちらからの連絡は?」

どうしても、口を挟まずにはいられなかった。

ルリシヤからの連絡を、ただ座って待っていることだけしか出来ないと思うと。

それはあまりにも…辛かった。

『ルレイア先輩達に何かあったときだけ、暗号文を用いてメールしてくれ。緊急時は電話でも良いが、くれぐれも盗聴には気をつけて』

…良かった。一応、連絡は取れるんだな。

「分かった。他には?」

『完全に信頼された…とまでは言わないが、仮初めでも、ヒイラ・ディートハットの信頼はある程度得たつもりだ。こちらは心配ない』

心配ないじゃねぇよ。

現状、お前が一番心配だ。
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