The previous night of the world revolution~T.D.~
「…この契約があなた方とのものでなければ、とっくに違約金をもらって、契約破棄していたところでしょうね」

我が『青薔薇連合会』の代表、アイズレンシア・ルーレヴァンツァは。

報告書をテーブルに放りながら、そう言った。

その目は、まるで背筋の凍るような冷徹なもので。

素人なら、その眼光だけで卒倒していたところだろう。

隣にいるシュノも、似たようなものだ。

そして多分、俺も。

アリューシャでさえ、会議だというのに、珍しくちゃんと起きている。

…いや、普通、会議中に起きてるのは当たり前なのだが。

「話が違う」

アイズは、帝国騎士団長オルタンスに向かって、そう吐き捨てた。

その通りだ。

同じ言葉を、俺も連呼してやりたいくらい。

すると。

「そーだそーだ!話が違うだろ!アリューシャですら分かるぞ!話が!違う!だろ!」

俺の代わりに連呼ありがとう、アリューシャ。

ただ、マフィアの威厳がなくなりそうだから、お前はちょっと黙っててくれないかな。

あのアホなアリューシャですら分かるんだから、相当だぞ。

それなのに。

「そうだな。まさか、これほどとは思ってなかった」

まるで他人事のように、オルタンスが言った。

…こいつ…。

俺がブチ切れそうになったら、先にシュノが激高した。

「何を他人事のように!あなた達が持ち掛けてきた話でしょ!」

そうだ、もっと言ってやれシュノ。

「これほどとは思ってなかった?白々しい!知っていて送り込んだんじゃないの!?」

俺もそう思った。

こいつらは、『赤き星』や『帝国の光』という組織の危険性を、あらかじめ知っていたのに。

自分達が潜入するのは危険を孕むからと、わざと俺達に話を持ちかけ、俺達に潜入させたのではないかと。

そう疑ってしまうほどに、あれらの組織は危険過ぎる。

「それでいて、唯一あなた達の側から潜入させたルーシッドは、一番危険性の少ない『ルティス帝国を考える会』だなんて。危険そうな組織だけ私達に潜入させて、自分達は安全圏から高みの見物ってこと?」

シュノが、ことごとく俺の言いたいことを代弁してくれる。

俺がこれだけ冷静でいられるのは、ルレイアが『ルティス帝国を考える会』に潜入しているからだ。

『赤き星』や『帝国の光』に比べれば、『ルティス帝国を考える会』は、まだ安全な方だ。

しかもルレイアは、『考える会』でも、充分組織の信頼を得ている。

それが分かっているから、まだ冷静でいられる。

ルレイアがもし、『赤き星』や『帝国の光』などといった、危険極まりない組織に潜入していたとしたら。

俺は今頃、オルタンスに銃口を突きつけていただろう。

しかし。

だからって、ルーチェスやルリシヤだから別に良いって訳じゃない。

今だって俺は、オルタンスの首根っこを掴みたくて掴みたくて、必死に我慢してるんだぞ。
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