The previous night of the world revolution~T.D.~
生まれで全てが決まっていた旧箱庭帝国では、有り得なかったことだ。

一般市民は、決して大学になんて入れなかった。

何なら高校にだって、特別なコネがなければ行けなかった。

一般市民の教育と言えば、精々中学校を卒業するまで。

そこまで勉強出来れば御の字で、特に貧しい家庭では、小学校さえまともに卒業していない民達でさえいる。

それなのに。

このルティス帝国では、教育の自由が与えられている。

早い話、どの地方でどんな家庭に生まれようが、頭が良ければ良い大学に入って、レベルの高い教育を受けられるのだ。

それは、とても素晴らしいことだと思う。

ルティス帝国の人々にとっては、当たり前の感覚なのかもしれないが。

旧箱庭帝国を知っている俺達にとっては、とてつもなく先進的で、そして画期的だ。

自分の学力次第で、自分の好きな大学の、好きな分野について学べるなんて。

「やっぱり、ルティス帝国に視察に来て正解だった」

「えぇ、本当に」

ユーレイリーも、感心しながら同意した。

現在箱庭帝国は、憲兵局率いる旧体制を打破し、開国して、新しい民主的な政権を作ったばかりだ。

貧しい箱庭帝国を建て直す為、まず取り掛かったのは、観光業の活性化だった。

これは、箱庭帝国に外貨をもたらす為であると同時に。

箱庭帝国は閉鎖された国である、という諸国のイメージを、払拭する為の事業だった。

その為、積極的に外国から観光客を募り、その効果もあって。

今では、諸外国の旅行パンフレットで、箱庭帝国観光ツアーが載るようになったと聞いている。

大変有り難いことだ。

そのお陰で、箱庭帝国は現在、少しずつではあるが、国全体が豊かになりつつある。

勿論、ルティス帝国には遠く及ばないのが現状だが。

長い箱庭帝国の歴史からすれば、まだまだ開国されて間もないも同然。

これから、どんどん良い方向に変わっていけば良い。

そこで、観光業の次に俺が目をつけたのは、国内の教育機関の充実化である。

これからの箱庭帝国の未来の為にも、深い知識を持った若者達…箱庭帝国の未来を作る子供達…を、育成する必要がある。

過去の歴史から過ちを学び、未来でそれを再び繰り返さない為にも。

国民達に、教育が必要だ。

それも、高校や大学といった、高度な教育を受けられる場所が。

箱庭帝国に、新しく国営の大学を創立しよう。

そんな話が国内で持ち上がり、ならばとばかりに、俺はルティス帝国に訪れた。

先進国であるルティス帝国の、最も進んだ大学を目にすれば。

きっと、祖国で新しく創立される大学にも、その知識を活かせると思ったからだ。

だからこの度、箱庭帝国を代表して、俺はこの王立ルティス帝国総合大学にやって来たのである。
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