The previous night of the world revolution~T.D.~
…とはいえ。

国務として来訪したのだから、私情を挟んではいけないことは、重々承知しているものの。

折角ルティス帝国にやって来たのに、彼に会えないのは、少々寂しい。

電話でのやり取りはあっても、直接会う機会は、滅多にないから。

俺にとって、ルティス帝国と言えば彼、彼と言えばルティス帝国、みたいなところあるからなぁ。

彼に会わないルティス帝国来訪なんて、有り得ないにも等しい…。

だが、残念ながら、今回ばかりは無理そうだ。

スケジュールもかなり詰まっているし、第一。

ルティス帝国の、裏社会で暗躍するあの人が。

まさか、こんな大学に来ているなんて、それこそ有り得ないだろう。

…しかし。

しばらく会わないうちに、俺は忘れていたのかもしれない。

「こちらは、子ども教育学部の実習室です。丁度今、幼児教育実技の実習中ですね」

と、案内人のお姉さんが言った。

「そうですか。…えぇと、見学は可能ですか?」

教育学部と言えば、まさに未来の若人達を育成する専門の学部だ。

どんな講義が行われているのか、是非とも見せてもらいたい。

学生達は、「見世物じゃないんだぞ」と思うかもしれないが。

これも未来の国作りの為。ちょっとだけ、視察を許して欲しい。

すると。

「構いませんよ。事前に許可は取ってますから。どうぞ」

お姉さんは、快く承諾してくれた。

有り難い。

「講義中、失礼します」

お姉さんは実習室の扉をノックし、その扉を開けた。

そう、俺は忘れていた。

いつだって。

「…えっ?」

あの人は、常識から外れた場所にいるのだということを。
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