The previous night of the world revolution~T.D.~
旧箱庭帝国が…俺が、『青薔薇十字軍』を率いて革命を行ったのは。

憲兵局による一党独裁により、多くの国民が疲弊し。

憲兵局と一部の特権階級を除く、国民の大部分が、解放を求めていたからだ。

その思いを代弁すべく、俺は立ち上がり、革命を起こして箱庭帝国を改革した。

しかし、現在のルティス帝国はどうだろう。

ルティス帝国の未来を担う若者達が、共産主義的思考に傾き始め。

王制や貴族制の廃止を望み、全ての国民の平等を求めているのなら。

止めるべきなのか?その動きを。その願いを。

国民感情を無視し、自分達の保身の為に、力に任せて現体制の維持を強行するならば。

それは、箱庭帝国を長い間独裁していた、憲兵局と同じだ。

勿論、帝国騎士団は憲兵局とは違う。

憲兵局なんかよりもっと理性的だし、国民の感情に寄り添った組織だ。

それは分かっている。

でも、それでも国民が平等を望んでいるのなら…。

真っ向から批難するのではなく、せめて彼らの意見を聞いても良いのでは?

「…つまり、王制も貴族制度もぶっ潰し、帝国騎士団も解散しろ、と?国民の為を思うならそうしろと?」

ルレイア殿の声があまりに冷たくて、やっぱり言わなければ良かった、と思ったが。

一度言ったことは、取り消せない。

「そ、そこまでは…。でも、国民の声を無視するのは…」

「時にルアリス坊や」

ぼ、坊や?

「はい?」

「ルティス帝国の人口を知っていますか」

は?

「じ、人口ですか?それは勿論…」

「国土は知ってますか」

「はい…」

箱庭帝国とは比べ物にならないくらい、大きいですよね。

尊敬してます。

「若者の間で広まりつつある…とはいえ、真に共産主義化を望むルティス帝国民の数は、全ルティス帝国民のほんの一握りでしかありません」

「…」

「裏を返せば、ほとんどの国民は、現体制に不満を持っていないということです。ただ、『天の光教』に感化された一部の、インテリぶったガキ共が、面白半分に共産主義を掲げているだけです」

「…えっと、それは…」

「つまり、国民の大半は、変化を望んではいないんです」

…!

「あなた方の国がそうだったように、特権階級以外の大部分の国民が、食うや食わずの生活をしている訳じゃない。程度の差こそあれど、ルティス帝国民のおよそ95%以上は、ほぼ安定した生活をしています。彼らが誇張するように、王家と貴族だけが財産を独り占めしている訳じゃない」

…そうだ。

自分でもさっき言ったじゃないか。憲兵局と帝国騎士団は違う。

帝国騎士団は、ちゃんと国民の生活を考えている。  

だからこそ、ルーシッド殿が派遣されたのだ。

「ルティス帝国は、建国時から現在に至るまで、ほとんど現体制から変わっていません。つまり、一部のガキ共が主張するような、完全共産主義を敷けば、ルティス帝国はかつてない大変革を遂げ、そして同時に、かつてない大混乱を招くことになる訳です」

「…」

「あなたも味わったでしょう。箱庭帝国を解放してから、現在に至るまで。国を建て直すのが、どれだけ大変だったか。そして、今も苦労している真っ只中でしょう」

「それは…身を以て味わっているところです」

箱庭帝国の革命は、俺達『青薔薇十字軍』の反旗は。

革命が成功して、それで終わりじゃなかった。

むしろ、そこからが始まりだったのだ。
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