The previous night of the world revolution~T.D.~
革命が終わった当初。

箱庭帝国の国民は、混乱の中にあった。

それまでずっと、憲兵局に支配され、教育の機会も与えられず、自分で考えることも満足に出来なかったのだから、無理もない。

俺はその混乱を鎮める為に、ルティス帝国を筆頭に、ルティス帝国の同盟国からの支援、援助を受け。

国民の生活を保証し、乏しい国力の中から、観光事業を通して外貨を稼ぐことで、徐々に政府の基礎作りを続けてきたが。

それだって、未だに道半ばだ。

安定してきたとはいえ、未だにルティス帝国ほど落ち着いている訳ではない。

それに、革命直後は、旧憲兵局派が手を組み、ルティス帝国の皆さんにもご迷惑をかけてしまった。

その節は、本当に申し訳なかった。

「そしてルティス帝国は、箱庭帝国より遥かに巨大な国です。おまけに歴史が深いと来た。政治体制の大革命なんて起きれば、その後の混乱は、箱庭帝国のそれとは比べ物になりません」

「…」

その通りだ。

最悪、内乱さえ起きかねない。

箱庭帝国の場合、国民が疲弊しきっていた為に、内乱を起こす余裕がなかった。

故に、大した内乱も起きなかった。

でも、ルティス帝国は違う。

「ついでに言うと、ルティス帝国はアシスファルト帝国を筆頭に、諸外国にも様々な同盟国を持っています。ルティス帝国が変われば、それはルティス帝国だけの話にはならない」

こちらも、その通りだ。

箱庭帝国は小国で、しかも、長い間鎖国状態で、他国との交流も皆無に等しかった。

つまるところ、箱庭帝国が開国しようが革命を起こそうが、世界の大多数の人々にとっては、どうでも良いことだったのだ。

当事者だった俺にとっては、それはそれで切ないが。

実際、箱庭帝国とルティス帝国では、革命の重みが違う。

ルティス帝国国内が揺らぎ、傾くようなことがあれば。

それは、世界規模で影響を及ぼすことを意味する。

「大体、ルティス帝国が本当に体制を変えてしまったら、箱庭帝国だって、影響を受けることになるんですよ」

「そ…そうですね」

忘れるなかれ。

箱庭帝国は、その国土からして、外交や交易を行うには、ルティス帝国を経由することが多い。

革命のとき、そして国を建て直す際には、ルティス帝国から少なからぬ支援も受けている。

世界の目線から立ってみれば、箱庭帝国はルティス帝国の属国である、とみなす者が大半であることは、俺も分かっている。

ルティス帝国は…帝国騎士団は、その好意から、決して大衆の前で、「箱庭帝国はルティス帝国の属国である」とは言わない。

あくまで、立派な一つの国として尊重してくれている。

ルティス帝国から受けた資金援助も、一応借用書もあるし、返済期限も決めてあるが。

実際のところは寄付に近く、「返せるようになったら、いつか返してくれれば良いよ」程度の拘束力しかない。

それは紛れもなく、帝国騎士団の好意であり。

そして、そんな帝国騎士団に口添えしてくれた、『青薔薇連合会』のお陰なのだ。

もしルティス帝国が大きく政治体制を変え、もっと厳格な政府に変貌を遂げたら。

「あのときの恩を、倍にして返せ」と命じられる可能性もある。

それどころか。

「お前ら今日から、ルティス帝国の属国な。言うこと聞けよ。逆らったら侵略するから」なんて言われても、おかしくはないのだ。

…背筋がゾクッとした。

もしそんなことを言われたら、今の箱庭帝国には、抵抗する術がない。

それどころか、再び独裁体制を敷かれ、国民は貧困に逆戻りすることになりかねない。

ようやく憲兵局の支配から解放され、希望に満ち溢れていた国民達が、再び絶望の底に叩き落される。

想像しただけで、心臓が止まりそうだ。

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