The previous night of the world revolution~T.D.~
「それに、ルティス帝国が革命によって疲弊すれば、諸外国から攻め込まれる好機とみなされるかもしれません」

と、ルーシッド殿。

…確かに。

革命によって混乱した外国に、ここぞとばかりに攻め込む。

他国を侵略する、絶好の機会だ。

「シェルドニア王国に関しては、俺が個人的に縦ロールと不可侵条約を結んでるので、大丈夫だとは思いますが…。ルティス帝国の国土を、密かに狙ってる連中は、シェルドニアだけではありませんからね」

た、縦ロールって…。

シェルドニア王国の、アシミム女王のことだよな?

他国の女王を、そんなあだ名で呼ぶのはあなたくらいでしょうね、ルレイア殿。

「今回の問題は、ルティス帝国だけに留まりません。脅したくはないですが…箱庭帝国にも、影響を及ぼしかねないのです。故に…帝国騎士団は、箱庭帝国の代表であるあなたに、この件についてお話することを決めたのです」

ルーシッド殿が言った。

…そういうことだったのか。

「そして同時に、協力の要請でもある」

ルーシッド殿の言葉を付け足すように、ルレイア殿が続けて言った。

「協力?」

「言いましたよね?あなた。俺達の為なら、どんなことでもすると」

「…はい。言いました」

今更、その言葉を撤回するつもりはない。

「国民感情に寄り添うべきではないか、というあなたの意見はごもっともです。ですが今、この段階で、急激に変革を起こせば、ルティス帝国は自国のみならず、諸外国にも多大な影響を及ぼしかねない。そして…」

「…そして?」

「ルティス帝国が、本当に『帝国の光』が掲げるような、厳格な共産主義組織になったとしたら、『青薔薇連合会』の命さえ危ない。帝国騎士団は…言うまでもないですよね」

…それは、つまり。

俺にとって、個人的な恩人でもあるルレイア殿と、ルーシッド殿の命も懸かっているということ。

「あなたが本当に、俺達に恩を感じているのなら…。あなたに出来ることは一つです」

「…何でしょう」

「ルティス帝国の共産主義化を、止めてください。反対してください」

「…具体的には、何をしましょう」

「そうですね…。もしルティス帝国内の共産主義組織が、何らかの形で、箱庭帝国に協力の要請をしてくることがあるかもしれません。旧箱庭帝国は、ある種の共産主義国家でしたからね」

成程。

元共産主義国家として、ルティス帝国の共産主義化を手伝ってくれ、と?

確かに、そんな要請を受けないとも限らない。

「だからそのときは、きっぱりと断ってください。あなたの立場で、取れる権力を持って、あらゆる形で、ルティス帝国の共産主義化を阻止してください。出来る範囲で構いません」

「…」

「あなたにとっての恩人に、あなたの国にとっての恩人に、報いたいと思うなら。ルティス帝国の革命によって、あなた方の国を守る為にも」

…そういうことか。

ルティス帝国の共産主義組織…『帝国の光』や、『赤き星』の皆さんには、申し訳ないが…。

…俺は、恩人を見捨てられない。

ましてやそれが、自分の国を守ることにも繋がるのなら。

「…分かりました。協力します」

「…箱庭帝国の代表…『青薔薇委員会』の委員長として?」

「はい。箱庭帝国の代表として」

「良いでしょう。あなたの覚悟、しかと聞かせて頂きました」

後悔はない。

恩人の為なら何でもする。革命が成功したときから、俺はそう自分に誓ったのだから。

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