The previous night of the world revolution~T.D.~
何だって、今更こんな気持ちになるのだろう。

構ってちゃんじゃないんだからさ。

「俺が無実の罪を着せられて、名前を奪われて、生きる意味を失ったこと…。あの事件は、確かにローゼリア元女王の失脚に繋がったけど、でもあの人が退位したのは、それだけが理由じゃなかった」

ローゼリア元女王の汚職事件の、一つでしかなかった。

「俺は事件の当事者ですから、自分の不幸に泣いたし、それに対して復讐を果たして満足しています。そのことに後悔はない。けれど…」

それでも。

今日、初めて国民の意見を聞いた。

あの事件とは全く関係のない、一般人の意見を。

そして分かった。

俺の身に起きた悲劇なんて。

「どうでも良いことなんですね。王家に忠誠を誓った騎士が一人、その王家に裏切られ、貴族から一般人に落とされることなんて…。そんなものを、その程度のことを、不幸だなんて嘆いていた俺は、どれだけ愚かだったか…」

『…愚かなんかじゃない。お前は愚かなんかじゃない。お前は…』

「良いんです。分かってますから」

考えてみれば、当たり前のことだ。

不幸な出来事なんて、この世にいくらでも溢れている。

前にも言っただろう、年齢サバ読みおばさんに。

この世の、幸福と不幸の天秤は、いつだって釣り合っている。

どちらかに傾くことはない。

俺が幸福を感じているとき、その瞬間、もう人生終わったと思うほどの、不幸を感じている人間がいる。

世の中そういうものだ。

だから俺の身に起きた不幸なんて、世界規模で考えたら、ちっぽけで些末な出来事でしかない。

世界規模どころか、国規模でもそうだろ。

何なら市内規模でも影響なし。

他人の不幸が俺にとって、糞どうでも良いことなのと同じ。

俺が味わった、この左手首の傷の痛みは。

他人にとって、どうでも良いことだったのだ。

俺は国を守る為、あの王家を守る為に、犠牲になったというのに。

俺が守った者は誰も、俺が犠牲になったことを知らないどころか。

知ったところで、「そんなことはどうでも良い」のだ。

そして、それは当たり前のことなのだ。

当たり前のことを突きつけられて、アホみたいに今更引き摺って。

あぁ、俺の犠牲って、その程度のものだったんだなぁって。

そう思うと、何だかやり切れなくなって。

それで無性に、ルルシーが恋しくなってしまったのだ。
< 233 / 820 >

この作品をシェア

pagetop