The previous night of the world revolution~T.D.~
そんな訳で、その日は僕達『赤き星』のメンバーは、同志の一人が持ってきた、

例の論文を読むことに、時間を費やした。

皆、一言一句を噛み締めるように、真剣な眼差しで論文を読んでいた。

僕はと言うと、本音で言えば、コミュニズムなんて、大概はろくな結果しか産まないんだからやめとけ、としか思ってないので。

さっさと読み終わってしまって、暇。

しかも、画期的とか言いながら、これ書かれたの何年前だと思ってるんだ。

お陰でその内容も、原理共産主義的と言うか。

もう、一切の妥協も許さない、完璧なるコミュニズム論を提唱していて。

正直、中学生の厨二病ノート読まされてる気分だった。

痛い。これは痛いレベルですよもう。

こんな理想論、よくも思いついたものだ。

むしろ、理想だからこそ、ポンポン出てくるものなんだろうか。

あんたの理想論厨二病ノートが、黒歴史として封印されているだけなら、それで良い。

問題は、その厨二病ノートを見つけ出し、これこそ世の真理だ!と真に受ける奴が多過ぎるって点だ。

全く、厨二病ノートを作成するのは結構だが、それを公開するのはやめてくれないか。

こうして、真に受ける奴がいるんだからさ。

それも、妄信的なほどに。

この人達の、この真剣な眼差しを見ていると。

この論文に、「実は10年後世界が滅びます」と書かれていたら、マジで信じるんじゃないかと思うほど。

まぁ、それは有り得ないのだが。

大体この論文が書かれたのは、もう半世紀以上前だし。

「10年後世界が滅びます」って書いてても、全然滅びてないじゃん!ってなるからな。

いや、いっそそんな馬鹿げたこと書いててくれた方が良かった。

だってそうしたら、この論文に書かれていることがどれほどいい加減か、皆に伝わるだろう?

…などと、余所事ばかり考えていると。

「…同志ルクシア」

「…はい?」

自分の名前を呼ばれたのだと、気づくのに一瞬遅れた。

そうだ。そんな名前で潜入してるんだった、僕。

「もう読んだのですか?」

この、懐疑的な目。

しまった。余所事考えてるのバレたか?

「はい」

読み終えたのは事実なので。

「その上で、この論文に書かれていることの本質について、自分なりに考察していました」

ちょっと、それっぽいことを言ってみた。

すると。

「成程。では、あなたが考えた、その考察というのを皆に聞かせてもらえますか?」

畜生。

ちょっとそれっぽいことを言っただけで、この仕打ちだよ。
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