The previous night of the world revolution~T.D.~
そもそも、抽象画って何?

それは何なの?食べ物じゃないことは分かる。

画って言うだけあって、多分絵の一種なのだ。

そして多分、本来はルーチェス君自身がやらなければならない課題なんだろう。

ルーチェス君、美術学部だって言ってたし。

多分そこで、課題が出されたんだろう。

さっきの、抽象画っていうのを描いてきなさい、って。

そこまでは推測出来るのだけど。

それにしても、学生に課した課題を、部外者の私が描いて出して良いものなの?

よく分からないけど、ルーチェス君が私に託してきたってことは、別に私の代作でも、問題ないんだろう。

本当はいけないんだろうけど。

バレなきゃセーフ。

でもね、ルーチェス君。

私実は、抽象画ってものが何なのかすら、よく分かってないんだよ。

そんな人間が描いた作品が、仮にも美術学部で…しかも、ルーチェス君が通ってるのって、私立ローゼリア学園大学でしょ?

私みたいな、大学に最も縁遠い人間でさえ、名前くらいは知っている。

そんな有名大学の、美術学部の課題を。

素人の私が描いたりしたら、バレるんじゃないの?

いくら一年生とはいえ。

自慢じゃないけど私、芸術的センスは皆無だよ?

何億もする名画と、近所の絵画教室に通ってる人が、適当に描いた絵の区別がつかないタイプだよ?

何なら、抽象画の意味すら分かってないから。

もう、美術のセンスがあるとか以前。知識の段階から問題がある。

…けれど。

こうして、頑張ってるルーチェス君の背中を見ていたら、そんなことは言えない。

とても言えない。

私が「そんなの描けないよ無理〜っ!」って言えば。

多分ルーチェス君は、「分かりました。じゃあ僕がやるんです大丈夫ですよ」とか言って。

寝る時間を削って、自分でテキパキやってしまうのだろう。

大体普段から、ルーチェス君って、何でも自分でやっちゃうんだもんなぁ。

私が不器用なせいでもあるんだけど。

いつもいつも、頑張るのはルーチェス君ばかり。

私だって、不器用だけど、頭も悪いしセンスもないけど、でもルーチェス君の役には立ちたい。

それに何より、ルーチェス君は、今回私にお願いしてくれたのだ。

いつもは何でも自分でやっちゃうルーチェス君が、わざわざ私に頼んできた。

つまり、今回はルーチェス君も、自分でやる余裕がないのだろう。

当然だよね。あんな難しそうな本をたくさん読んでたら…。絵なんて描いてる暇ないよ。

だったら、私が頑張らなきゃ。

折角ルーチェス君が、このセカイお姉ちゃんに頼み事をしてくれたのだ。

その思いには応えるのが、お姉ちゃんとしての役目というもの。

…よし、頑張ろう。

私は毛布にくるまりながら、固くそう決意したのだった。
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