The previous night of the world revolution~T.D.~
「しかし、セカイさんはタヌキのぬいぐるみが好きだったんですね…。知りませんでした」

「え?あー、そういう訳じゃないけど」

そういう訳じゃないんですか?

「なんかこう、何枚か集めて送ると、抽選で当たるキャンペーンって…つい応募したくならない?」

「なりませんけど」

「もー!」

ぽむっ、とぬいぐるみに頭突きされた。

…ん?

「ルーチェス君ってば、女心が分かってないんだから!」

「それは済みません…」

期間限定っていう言葉に弱いタイプなんですね、セカイさんは。分かりました。

僕はそういうの、「期間限定」って言葉で人を惑わす、ある種の悪徳商法だと思ってますから。

本当に「この商品なら行ける!」という自信があるなら、レギュラー化して売れよ。

それはともかく。

「ちょっとそのぬいぐるみ、貸してもらえませんか」

「ん?いーよ」

ちょこんと座っている、間の抜けたタヌキのぬいぐるみを、セカイさんから受け取る。

なんか、さっき頭突きされたとき、変な感触がした…ような。

この、ぽふっとしたタヌキの足、

「…!」

タヌキの右足の、足の裏をもふもふと触り。

次に、左足の足の裏を触ったとき。

僕は、そこに何かがあることに気づいた。

気づいてすぐ、血の気が引いた。

…不味い。

ぬいぐるみの足に仕込まれたそれが、何なのか想像して。

僕は昨日、帰宅してからの言動を逐一振り返ってみたが。

今更思い返したって、最早何の対策のしようもない。

「どう?ルーチェス君もタヌキちゃんかわい、」

僕は、右手で楽しげに喋るセカイさんの口を塞いだ。

きょとんとするセカイさんに、左手で僕の口元に人差し指を立てて、声を出さないように指示する。

僕が真剣な眼差しをしていたからか、セカイさんは固まったように言葉を発しなくなった。

ごめんなさい。ちょっと…今は。

不用意に発言してはいけないんです。

って、今更もう遅いんですけど。
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