The previous night of the world revolution~T.D.~
僕は、セカイさんの口を塞いでいた手を離したが。

相変わらず、左手の人差し指を口元に当てたまま、黙っているよう指示。

よく分かっていないながらも、セカイさんはこくこく、と頷いた。

済みません。

「…しかし、こういうキャンペーンって面白いですね」

僕は適当なことを話しながら、立ち上がった。

黙っているよう指示されたセカイさんは、何も答えない。

「中には、当たった人に一年分のお菓子プレゼント、とかいうのもあるんでしょう?ああいうのって、うっかり当たったらえらい目に遭いそうですね」

相変わらず適当なことを言いながら、僕はメモ用紙とボールペンを手に取る。

それに書き込みながら、なおも適当なことを話し続ける。

「だって、一年分タヌキのマーチが届いたとして、それって何個なんですかね?一日一個だとしても、365個届くんですよね。それってもう仕入れですよ。業者レベルじゃないですか」

言いながら、セカイさんにメモ用紙を見せる。

『今から書くことを、落ち着いて読んでください。絶対に驚かないで。』

見せると、セカイさんは一瞬、びっくりしたように目を見開き。

それでも、分かったという風にこくこく頷いた。

ありがとうございます。

「せめて、味違いが来ると良いですね。全部チョコ味のタヌキのマーチだったら、一ヶ月どころか、一週間で飽きそうですよ、僕なら」

タヌキのマーチのことを話しながら、メモ用紙に記入する。

本当なら、手話かモールス信号で会話した方が安全なのだが。

残念ながら、セカイさんは手話もモールス信号もご存知でないので。

筆談せざるを得ない。

ぬいぐるみを別部屋に置いてくる、という手もあるが。

これに仕込まれているブツの、集音性がどれほどのものか分からない上に。

いきなり聞こえなくなったら、バレたことに気づかれる。

いや、もう手遅れなのかもしれないが。

今のところ。

今のところは、直接的に不味い発言はしてないはずだ。

『このぬいぐるみ、足の裏に盗聴器が入ってる恐れがあります。』

ぬいぐるみの足の裏を触ったとき、明らかに綿ではない、何かの異物の感触がした。

触った感触からして、小型の…それこそ、ルリシヤさんが、よくルルシーさんの部屋に仕込んでるサイズ。

異物が入ってる感触がするだけで盗聴器なんて、考え過ぎだ、と思われるかもしれない。

でも、僕の今の状況。

スパイとして、危険とされるサークルに入会し、かつ…。

何より僕は、『青薔薇連合会』の『裏幹部』なのだ。

それだけで、盗聴器を送り付けられる理由は充分だ。

「…!」

メモを見せると、セカイさんは驚いて声をあげ…、

そうになったが、自分で自分の口を押さえて、なんとか我慢してくれた。

助かった。

僕は、続けて書いた。

『僕が会話を誘導するので、僕の話に合わせて、落ち着いて会話を続けてください。大丈夫ですか?』

こくこく、と頷くセカイさん。

良かった。
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