The previous night of the world revolution~T.D.~
「そういうのは応募しないんですか?セカイさんは。当たったらお菓子一年分キャンペーンとかは」

「あ…えっと…」

明らかに動揺しているセカイさん。

無理もない。無理もないが、どうにか合わせてもらわないと困る。

落ち着いて、合わせて、とジェスチャーで伝える。

すると。

「じ…実は、いくつか送ったことはあるんだけど…」

「けど?」

「ああいうのは…一回も当たったことないなぁ」

それどころか、このぬいぐるみも偽物だろう。

結局、ああいう類のキャンペーンに、本当に当選者がいるのかは、謎に包まれたままである。

それより、セカイさんがちゃんと合わせてくれて助かる。

「でも…確かに、一年分もタヌキのマーチが来たら、食べるの大変だよねぇ」

「そもそも、賞味期限大丈夫なのかなって思いますよね」

「あはは…確かに」

そうそう、その調子。

その間に僕は、戸棚に閉まってある裁縫道具を、テーブルに持ってきていた。

「ところでセカイさん、話変わりますけど」

これ以上、タヌキの話を引き伸ばすのは無理があるので。

話題を変えることにする。

「何かな?」

「今日の夕飯、何が良いですか?昨日はシェルドニア料理だったんで、今日は普通のルティス料理にしましょうか」

「そうだね〜。今日は普通のご飯が良いかな」

「肉と魚はどっちが良いですか?」

「お肉!」

肉食系女子、セカイさん。

他愛もない会話をしながら、僕は裁ちばさみを使って、ぬいぐるみの左足を切り取り。

細心の注意を払って、綿を掻き出した。

そして。

その綿の奥に、黒い小型の何かが埋もれていた。

「肉ですか。豚と牛と鶏とアザラシ、どれが良いですか?」

「もー!アザラシはやめてよ〜」

「冗談ですって」

軽くジョークを交えて話しながら、ピンセットでブツを摘まみ、取り出す。

「…」

予測していたので、僕は冷静だったが。

セカイさんは、顔を引き攣らせていた。

初めて見るならば、無理もない。

再び、僕は落ち着くようにジェスチャーで伝える。

「…で、何の料理にしましょう」

「そ、そうだな〜。今日は豚さんの気分かな?」

「豚ですか。了解です」

言いながら、僕は盗聴器を確認した。

…うちで…『青薔薇連合会』で使っているものではないな。

何処から流通してきたものか。

とにかくこれで、『青薔薇連合会』と敵対する誰かが、僕にこれを送りつけてきたのだということが判明した。

僕はブツを、そっとぬいぐるみの足の中に戻した。

ここで壊したり動かしたりしたら、盗聴に気づいたことが向こうにバレてしまう。

あくまで、騙された振りをしていなくては。

「あ、そうだセカイさん」

「な、何?」

「折角届いたタヌキさんですが、今日お掃除の日なので、ちょっとそのタヌキさん、押し入れに入れさせてもらいますね。埃被ったら可哀想ですし」

「そ…う、だね。片付けておこうか」

僕は苦しい言い訳をして、ぬいぐるみの足だけを持ち。

宣言通り、別室の押し入れの前に持っていき。

盗聴器入りのタヌキの足を、そっとタオルで何重にもくるみ。

押し入れの中の、奥の方に置いた。

…永遠に眠っててくれ。そのまま。
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