The previous night of the world revolution~T.D.~
「幸い、決定的なことは何も話してません」

それを聞いて、少し安心した。

そうか。ルーチェスがスパイであることは…少なくとも、その証拠は掴まれていない。

それだけでも、充分だ。

「知られたのは、精々…我が家の画伯セカイさんの画力と、昨日の我が家の献立事情くらいでしょうか」

「…何の話をしてるんだよ、お前ん家…」

ルルシーが、呆れたようにツッコミを入れていたが。

神妙な顔をして、「今日のスパイ活動は…」なんて話をしてなかったんだから。

そんな平和な、他愛もない会話をしているくらいで丁度良いんだよ。

「今朝は?大丈夫?」

「今朝はタヌキの話をしてました」

どういう文脈で、そんな話に発展したのか、ちょっと興味があるけど。

今はそれどころじゃないね。

「細心の注意を払って、ぬいぐるみから盗聴器を取り出しましたが…」

盗聴器を取り出す際の振動や、僅かな擦れる音が、向こうに届いてるかもしれないね。

でも、盗聴器をそのままにしておくより、ずっと良い。

「盗聴器の型番は分かる?」

「うちで使ってるものじゃありませんでした。型番は…」

ルーチェスは、記憶してきた盗聴器の型番を聞かせてくれた。

確かに、うちで使ってるものじゃないね。

何処で流通しているものなのか、後で馴染みの「業者」に聞いてみよう。

「…改めて、アイズさん」

「うん」

「僕はここで降ります。これ以上スパイを続けても、僕は信用を得られないし、泥沼に嵌まるだけです」

そうだろうね。

「何より、セカイさんを…僕の妻を、巻き込みたくありません」

…そうだろうね。

「奥さんは、どうするの?」

「住所が割れているので、騒動が収まるまで、しばらく避難してもらうことにします。地方にある『青薔薇連合会』のホテルか、セーフハウスか…。見つからない場所に」

成程。

「君は、どうするの?」

「僕は…。…出来るなら、セカイさんに付き添っていたいですけど」

「うん」

「この非常時で、そんな悠長はしていられないので…。ここで…『青薔薇連合会』の本部で、バックアップ勢に加わろうかと思います」

「そう」

確かに、君が戻ってきてくれたら、私達銃後の者としては心強いね。

でも…。

私の中には、一つの考えが浮かんでいた。

それを口にしようとしたとき、

「…済みません。セカイさんがいなければ…僕一人の身なら、いくらでも危険に飛び込めるんですが」

「…ルーチェス…」

「こんな大事なときに、真っ先に離脱してしまうなんて。ルレイア師匠の弟子失格ですね」

「ルーチェス、そんなこと…」

ないよ、と言おうとしたが。

その必要はなかった。

何故なら。

「いいや、お前は間違いなく、ルレイアの弟子だ」

ルルシーが、不満を絵に描いたような顔で、そう言ったから。
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