The previous night of the world revolution~T.D.~
しかし、ルーチェスの代わりに、シュノがスパイ組に加わる…か。

シュノがそういう覚悟をしていたのは知っているし、いざとなったら、そうなるかもしれないとは思っていた。

でも、実際現実になってみると。

ゴーサインを出して良いものか、思案せずにはいられなかった。

いざというときの戦力としては、申し分ない。

ルレイアやルリシヤに、引けを取らない実力の持ち主は、『青薔薇連合会』にも一握りしかいない。

それでも…。

やはり、一番心配なのは…。

「…重ね重ね、失礼で申し訳ないんですが」

ルーチェスが、私の懸念を察したかのように挙手した。

「学力と社交性もそうですが、シュノさんに、スパイとしての適性がある…。と、太鼓判を押すことは出来ないと思います」

「ルーチェス…!あのな、お前、もう少し…」

「そーだぞ!シュー公だって頑張ってんだぞ!」

ルーチェスのはっきりとした物言いに、ルルシーとアリューシャが声を上げたが。

シュノは、

「良いの、分かってる。自分でも…。ううん、私が一番よく分かってる。私はきっと…スパイなんて向いてないわ」

「…シュー公…」

「それでも…。私も、役に立ちたいの。何もせずに、皆が危ない思いをしているのをただ聞いてるだけなんて、そんなの嫌。私だって、『青薔薇連合会』の幹部だもの。その役目を…責任を、果たさせて」

…そう。

それが、シュノの覚悟なんだね。

「…その気持ちは、俺もよく分かるよ」

と、シュノに同意したのは、

「ルルシー…」

他でもない、自分の片割れとも言える存在を、危険なスパイ任務に送り出しているルルシー。

ルレイアが危険な綱渡りをしているのに、ルルシーはただ、手伝えることもなく、情報を回収して回るだけ。

どれほどじれったい思いをしているか、筆舌に尽くし難いだろう。

…かく言う私だって、同じだ。

それに。

「アリューシャだってさー…。もっと頭が良くて、狙撃とゴキブリ以外にも特技があったら、スパイやりたかったさ…」

しょぼんとして、アリューシャが言った。

心配しなくても、君は他にも特技があるよ。

「…私、役に立ちたい。ルーチェスの代わりに、ローゼリア女子学園大学に行くわ」

「…シュノ。危険なんだよ、分かってると思うけど。『赤き星』は、ルーチェスでさえ手を引くほどに…危険な組織なんだ」

「…うん」

恐らく、もう『赤き星』に直接潜入することは出来ないだろう。

ルーチェスが突然離脱し、新たにまた一年生が入党を希望してきたら、怪しまれるのは当然だ。

だから、大学に潜入しながら、こっそり『赤き星』について調査することになるだろう。

内部には入れない。だから、外から探りを入れることになる。

でもそれだって、危険なことに変わりはない。

何せ彼らは、恐らく完璧な演技をしたであろうルーチェスでさえも信じることなく。

彼を疑い、真偽を確かめる為に、盗聴器まで送りつけた連中だ。

『赤き星』が単独で画策したことなのか、裏で『帝国の光』が動いていたのか、それは分からない。

けれど、危険なことには変わりないのだ。

「それでも、君は行くんだね?」

「えぇ。行くわ」

その目に、迷いはなかった。

…そう。

君が、そこまで覚悟を決めているのなら。

最早、止めても無駄というものだ。

「…分かった。すぐ手続きに取り掛かろう」

「アイズ…!本気か?」

「私も本気だけど、誰よりシュノが本気なんだ。彼女の覚悟に、水を差すのは野暮ってものだよ」

それに。

私も、ちゃんと引き際は弁えている。
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