The previous night of the world revolution~T.D.~
俺達が、唖然としているのも気にせず。

「付け焼き刃のシェルドニア語を学ぶのは、おすすめしませんね。そもそも箱庭帝国じゃ、シェルドニア語を教えられる人物もごく少数でしょうし。そこにコストをかけるくらいなら、いっそ削除した方がマシ」

相変わらず涼しい顔で、講義一覧を眺め。

そして。

「…ついでに言うなら、ここが政府の中枢組織の本拠地なら、もう少し警備を厚くすることにコストをかけた方が、マシというものでは?」

初めて俺の方を向いて、侵入者がそう言った。

この…男。

「…ルアリス・ドール・エーレンフェルト」

侵入者の男は、両剣を手に、俺に対峙した。

「一度、あなたとやり合ってみたかったんですよね」

「…えっ」

そのとき、俺は初めて気がついた。

正面から向き合って、初めて。

彼の胸に、

青い、薔薇のブローチがついていることに。

この人って、もしかして。

そう思ったときには、彼はもう、俺の目の前に迫っていた。

剣を抜く、その暇もなかった。

「坊ちゃん!」

「ルアリスさん!」

気がついたときには、俺の喉元に、鋭く光る両剣の刃が這っていた。

…見え、なかった。

青い薔薇のブローチに、気を取られていたとはいえ。

この人の動き、全然…見えなかった。

この人が少し動けば、俺の喉元から血飛沫が迸るだろう。

しかし、そうはならなかった。

何故なら。

「…ふふ」

この人からは、全く殺意を感じなかった上に。

彼は、俺の記憶にある、あの死神と同じ、不敵な笑みを浮かべて見せたからである。

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