The previous night of the world revolution~T.D.~
…聞きたいことや言いたいことは、たくさんあるが。

まず。

「ルーチェス殿…」

「はい」

「一緒に亡命してきた…ご家族というのは?」

「家族って言うか、嫁ですね。妻一人だけです」

そ、そうなんですか。

「奥さんは今、どちらに?」

「ん?空港近くのホテルに入ってますよ。何せお宅の警備、何処もガバガバなんで。偽造パスポートでも余裕でチェックインさせてくれました」

「…」

頭が痛過ぎる。

まず、偽造パスポートで入国しないでください。

と言うか、あなた方の作る偽造パスポートを、「これは偽物だ!」と気付ける人なんて、この国にいるのか?

『青薔薇連合会』たるや、それくらい完璧な偽造を施してくるんだから。それは見抜けなくて当たり前でしょう。

「じゃあ…奥さんは、今、無事なんですね」

「お宅のホテルマンの目が節穴のままだったら、無事でしょうね」

多分節穴なので、ホテルの一室でくつろいでいらっしゃることだろう。

それなら、それで構わない。

「で、亡命するってルレイア師匠に話したら、『じゃあ丁度良いから、あの元童貞坊やの家庭教師をしてあげると良いですよ。あいつアホですし』との有り難いお言葉を頂きまして」

「…」

「僭越ながら、ルレイア師匠の一番弟子として、二番弟子のあなたに、色々教えてあげようかと思って、こうして本部に侵入した次第です」

…ルレイア殿、相変わらず、あなたという人は。

とりあえず、侵入するのはやめてください。

心臓が持たない。

「で、ルアリスさん」

「はい」

「勘違いしないで欲しいんですけど、一応アイズさんから、そんな嘆願書を書いてはもらいましたが。その手紙に、強制力はありませんよ」

「…」

「それはあくまで、お願いしてるだけです。あなたは一国の代表なのだから、異国のマフィアの、個人的な理由による亡命なんて、認めたくなければ認めなくて結構です。そもそも偽造パスポートで入国してる以上、僕も嫁も、不法入国者ですしね。今すぐ突き返されても、文句は言えない立場です」

それは…。

…そう、だけど。

「だから、迷惑ならそう言ってください。迷惑だと思われながら滞在するのは、こちらとしても居心地が悪いので。別に心配されなくても、亡命先の宛は他にもあるので、そちらに行っても…」

「…では、ルーチェス殿。まずは、偽造パスポートでホテルに入った奥さんを、すぐに退去させてください」

「…」

ルーチェス殿は、しばし俺の顔をじーっと眺め。

「分かりました。じゃあ、僕達は大人しく箱庭帝国から出て行き、」

「そして、『青薔薇委員会』本部、この建物の近くにあるホテルに移動してください。大事な国賓を丁重にもてなさないなんて、観光国箱庭帝国として、面目ないです」

「…」

迷う必要などなかった。

アイズ殿も、水臭いことを。

あの方は律儀だから、わざわざ書面にして渡してきたのだろうが。

俺に頼み事をしたいなら、ルレイア殿のように、口頭で伝えるだけで構わないというのに。
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