The previous night of the world revolution~T.D.~
「それは…亡命を許可する、ということですか?」

「はい、勿論です」

ユーレイリーも、ラシュナも、苦笑いをするだけで、俺を止めはしなかった。

ヴィニアスに至っては、当然のこととでも言うように、表情一つ変えていない。

そう、当然のことだ。

「大恩ある『青薔薇連合会』の頼みを、断るなんて…俺には有り得ません」

「…あなた、『青薔薇連合会』に恩はあっても、僕個人に恩はないのでは?」

確かに、そうかもしれないが。

初対面だし。

でも、それが何だと言うのだ。

「ルレイア殿のお弟子さんなら、俺にとって恩人も同然です」

「…ふーん…」

ルーチェス殿は、頬杖をついて言った。

「『あのルアリスなら、断られることはまずないと思って良いよ』って、アイズさんが言ってましたが」

そんなこと言ってたんですか?

「本当にそうなんですね。あなた、自分のやってること分かってます?異国のマフィアの重鎮を、ほぼ独断で国内に匿おうとしてるんですよ」

「そうですね」

言い方を変えれば、そうなるのかもしれない。

でも、俺にとっては。

「祖国を救ってくれた恩人の一人に、危険が迫っているから守ってくれないか、と頼まれているから。俺は、それに応えるだけです」

「…成程…」

分かってもらえただろうか?

俺にとっては、そういうことなのだ。

断る理由はない。むしろ、喜んで匿わせてもらいたいくらいだ。

これでまた、少しでも彼らに恩を返すことが出来ると思えば。

国内でルーチェス殿を匿うくらい、何でもない。

「甘い甘い。甘いですねぇ。いみじくも国家の代表を名乗るなら、あなたはもう少し、厳格さを備えた方が良いですよ?」

「う…」

痛いところを突かれた気分。

「今は、開国直後だから他国も優しいですが。これから先、国家を成り立たせるに当たって、優しさだけではやっていけません。時には涙を呑んで、非情にならなければならないときもありますよ?」

「…そうかもしれませんね」

いつか、そんなときも来るのかもしれない。

苦しい決断を、迫られるときが来るのかもしれない。

大切な恩人でも、突き放さなければならない日が来るのかもしれない。

でも。

「でも…それは、今ではありません」

「…」

だから、今だけは。

自分の恩人に、優しさを見せることを許してはもらえないだろうか。
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