The previous night of the world revolution~T.D.~
我らが次期首領、アイズレンシアと。

仮面の幹部ルリシヤは、先程のオルタンスの含みのある言い方で、理解出来たようだが。

ルルシーは、

「な…んだと…?」

ちょっと、意味が分からなかったようだ。

オルタンスが、こんな回りくどい言い方をするから悪い。

「どういう意味だ、それは…!いつも通りって、それじゃあ何の見返りにもなってないじゃ、」

「まぁまぁルルシー、落ち着いて。これは解釈の問題だよ」

と、アイズ。

そうだね。解釈の問題。

普通に考えたら、確かにルルシーの言う通り、何の見返りにもなってない。

しかし。

『青薔薇連合会』に、帝国騎士団が『いつもの日常』を保証する。

そう解釈したら、意味合いが変わってくる。

随分と…大盤振る舞いをしたものだ。

余程、俺達を敵に回したくないと見える。

あるいは、あくまでも「帝国騎士団は『青薔薇連合会』と敵対する意思はない」ことを、伝えようとしているのか。

いずれにせよ、かなり思い切ったことをしたものだ。

腹を括ったという訳だな。

その潔さ、その覚悟は嫌いじゃない。

帝国騎士団は嫌いだけどな。

「解釈って…どういう…」

「彼らはね、私達『青薔薇連合会』の活動を保証してくれようとしてるんだ。これからも、これまで通りね」

「…!それって」

ルルシーも気づいたかな?

「俺達が普段やってる商売は、法に照らし合わせれば、大抵が犯罪か、あるいは限りなくグレーに近い行為だ。帝国騎士団が本気で検挙すれば、俺達は咎められてもおかしくない…。だが、彼らはそれを、『咎めない』と約束しようとしてるんだ」

ルリシヤが、分かりやすく解説してくれた。

更に。

「貴殿は、アイズレンシア・ルーレヴァンツァと言ったな」

「…そうですが、それが何か?」

オルタンスが、アイズをご指名。

「噂によれば、『青薔薇連合会』の次期首領は、貴殿が最有力候補だと聞く」

「…想像にお任せしますよ」

アイズはそう言うが、これは『青薔薇連合会』内では公然の事実だ。

アシュトーリアさんはアイズを名指しで、次期首領だと任命している。

それなのにアイズが、わざとぼかしたような返事をしたのは。

あくまで、帝国騎士団に余計な情報を与えるつもりはない、という意味だ。

「なら貴殿が次期首領という前提で言う。だからこの約束も、俺が帝国騎士団長であることを前提にして…。貴殿が首領となった後にも、この約束は保証する」

「…!」

…ほう。

アシュトーリアさんが引退し、アイズが首領となった後も。

帝国騎士団長がオルタンスである限り、『青薔薇連合会』には『いつも通りの日常』を保証すると。

俺達の非合法活動を、実質見て見ぬ振りをすると。

多少のことは大目に見て、融和路線で行く、と。

後ろから撃つことはしない、と。

それを約束しようとしているのだ、こいつらは。

な?随分思い切ったことをしたと思ったろう?

だってそれって、実質。

…帝国騎士団は、最早俺達の脅威ではなくなるということだ。

まぁ、もとからほとんど脅威ではないけどな。

「…」

アイズも、しばし無言で考えていた。

その気持ちは分かる。

この見返りは…大きい。

この約束をした以上、帝国騎士団は俺達を裏切ることは出来ない。

だが、逆は出来る。

俺達はいつでも、帝国騎士団を裏切ってやれるのだ。

このカードを手に入れるのは、大きい。

「…何が、そこまであなた方をそうさせる?私達にそこまで肩入れして、何のメリットがあるんですか」

「お前達を敵に回さずに済むからだ」

オルタンスは、間髪入れずに答えた。

…あぁ、成程。

そっちにも、それなりのメリットはあるってことね。
< 33 / 820 >

この作品をシェア

pagetop