The previous night of the world revolution~T.D.~
可能なことなら。
 
この時点で俺は、今すぐこの場を辞し。

私立ローゼリア学園大学に潜入するルーチェスに、すぐさま警告していただろうが。

残念ながら、今の俺に、そんなことをする余裕はなかった。

狼狽している振りすら、見せてはいけない。

俺はあくまで涼しい顔をして、ルーチェスの論文を読んだ。

頭の中で鳴り響く警告のせいで、論文の内容はほとんど入ってこなかったが。

それでも、彼の名誉の為に言わせてもらうと。

彼の論文は、完璧だった。

一分の隙もなく、完全に模範的なコミュニストを演じていた。

それだけは確かだった。

そして、実際に。

「成程。さすが私立ローゼリア学園大学の学生。これ、もうこのまま出版しても売れそうだよな」

ヒイラ総統は、笑いながらそう言った。

だってさ、ルーチェス。

それだけ、お前の論文は完璧なのだ。

「でも、やっぱり学生だからか…ちょっと堅苦しいんだよなぁ」

「かなり厳格なコミュニズム思想を持っているようですね」

と、『帝国の光』メンバーからは、若干の不評も買っていたが。

こればかりは仕方がない。

ルーチェスはあくまで、『赤き星』の連中に信用される為に、この論文を捏造した。

まさかその論文が、『赤き星』を通り過ぎて、『帝国の光』に渡されるなど、思ってもみなかったはずだ。

俺だって、実際こうして、巡り巡って別組織に潜入している、ルーチェスの手書きの論文を読まされることになるなんて。

全く、夢にも思っていなかった。

だからあくまでルーチェスは、『赤き星』の連中に「ウケる」ような論文を書いた。

ルルシー先輩からの情報によると、『赤き星』は、非常に結束の固い、厳格なコミュニストの集まりだとか。

そんな連中に信用されようと思えば、そりゃこんな論文になるのも当然だ。

そして『帝国の光』は、『赤き星』ほど原理主義的ではない。

故にこの場でルーチェスの論文は、かなり堅苦しいもののように見える。

共産主義原理主義者にとっては、非の打ち所がない完璧な代物なのだが。

「…どう思う?同志ルニキス」

「何?」

いきなりヒイラ総統に呼ばれ、俺は顔を上げた。
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