The previous night of the world revolution~T.D.~
「…何事だ、これは」

俺が『帝国の光』本部に来てみたら、『裏党』のメンバー達は、なんとも殺伐とした雰囲気で。

中には、苛立ち紛れに吐き捨てている奴もいた。

「これだから…!学生かぶれは信用出来ないんだ」

「そうだ、奴らは所詮、サークル活動の一部としか考えてない」

…随分、刺々しい言い方だが。

これは…。

「昨日、話してただろ?私立ローゼリア学園大学にあるサークルのこと」

ポン、と俺の背中を叩いた者がいた。

ヒイラ総統だった。

「…『赤き星』、とか言ったか」

「そうだよ。その『赤き星』から、論文が送られてきたろう?」

「そうだな」

ルーチェスのことだろう?

「そいつ、昨日の今日で、行方を眩ませたらしい」

「…」

…知ってる。

しかし、スパイとしての俺は、あくまで初耳であるかのように振る舞わなければならない。

「行方を眩ませた…?どういう意味だ?」

「一方的に退学届を押し付けて、蒸発したんだって。『赤き星』から勝手に脱退しただけじゃなく、大学からも逃げたらしい」

当たり前だろう。

『赤き星』はやめますが、大学は続けます、なんて勝手。

『赤き星』が許すはずがないし、大体『赤き星』に潜入しないのなら、あんな大学、通ってる意味がない。

あんな大学、とは言い過ぎか?

でも彼の生い立ちを考えれば、王族の名前がつく大学に通うこと自体、思うところがあるだろうから。

「おかしいよなぁ。昨日の今日で。昨日までは、あんなに立派なコミュニストだったのに…。何でいきなり行方を眩ませたんだろう?」

「行方不明…じゃないのか?」

いきなりいなくなるなんて、まずそこを疑うだろう。

「あるいは家出…とか」

「家出?私立ローゼリア学園大学にまで入学出来るような、頭の良い奴が家出?そんな馬鹿なことするか?」

「家出するのに、学歴や年齢は関係ないだろう?」

ご老人だって、ふらふらと家出してしまう世の中なんだから。

まぁ、それは家出と言うより、徘徊と言うのだが。

「確かに、家出だったら良いな」

…良くはないだろう。

「でもな、同志。前にいたんだよ。俺達『帝国の光』の繋がってる組織に、共産主義者を偽って入党したスパイ…裏切り者が」

「…」

「勿論、その裏切り者は粛清させてもらったよ。ルティス帝国が一丸とならないときに、危険分子は邪魔だからな」

…成程。

「あのルクシアって学生は、何処に行ったんだろうな」

今頃、箱庭帝国でハネムーンを楽しんでる頃だと思うぞ。

あのルアリスとかいう箱庭帝国の代表が、ルーチェスの亡命を拒否するとは思えないからな。

「何で昨日までは、あんなに完璧な論文まで持ってきたのに、いきなりいなくなったんだろうな?」

「それは…俺に聞かれても、困るんだが」

「…」

ヒイラ総統は、きょとんとしたように俺を見つめて。

「あはは!そうだったな。同志ルニキスが知ってるはずがない。俺でさえ分からないのに」

「…」

「それにしても、一体何があったんだろうなぁ。いきなり夜逃げ同然でいなくなるなんて。何か…不味いことでもバレたのかな」

…。

「さぁ、それはともかくだ」

ヒイラ総統は、皆の前に出て、手を叩いて注目を集めた。
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