The previous night of the world revolution~T.D.~
…時は現在に戻り。

ルーチェスが箱庭帝国に亡命した、その日。

例の、「危険分子」なる不穏なワードを聞いたその日。

俺は、日が暮れてからアパートを出た。

階段を降りながら、既に背後から、複数の視線を感じていた。

「あいつ、こんな時間に出掛けているぞ」と思ってるのかもしれないが。

こればかりは、恐らく特に警戒されていないだろう。

と、言うのも。

アパートの住民達が、「熱烈な歓迎」をしてくれた翌日。

俺は、あらかじめ自分からそれとなく、触れ回っておいたからだ。

「俺は今、夜勤のバイトをしている」と。

勿論、ヒイラ総統にした作り話、「金に余裕がなくて…」的な話も、それとなく交えておいた。

やっぱり夜勤のバイトは、割の良い時給であることが多いからな。

生活苦のフリーターなら、夜勤も仕方ないだろうと納得してもらえているはずだ。

そして、実際。

俺は毎晩、ちゃんと「バイト先」に向かっている。

尾行者も、最初のニ週間ほどは、夜ごと俺が出掛ける度に、連日ご丁寧に俺を尾行していたが。

俺が毎晩、同じ「バイト先」に向かうものだから、最近は夜の尾行はまばらになった。

時折、抜き打ちチェックのように、たまに尾行される程度。

まぁ、いつ尾行してくれても構わないのだが。

俺が毎晩通っている「バイト先」は、変わらないのだから。

で、俺が勤めている「バイト先」は何処なのか、という話だが。

俺はその日も、「バイト先」に着くなり、仕事着に着替えた。

黒いスーツに、黒いシャツ、黒いネクタイ、黒いブーツと、黒いネックレスを身に着け、仕事場に出る。

天井には黒いシャンデリア、黒い壁紙には、黒いスパンコールが散りばめられ。

リノリウムの床は、これまた真っ黒で、キラキラとラメが光っている。

黒革のソファに、黒の大理石のテーブル。

そう、ここは。

ルレイア先輩が営業する風俗店の一つ、『black sacrifice』と名付けられた、ホストクラブである。
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