The previous night of the world revolution~T.D.~
「…成程、理解しました」

アイズレンシアは、嘆息してそう言った。

「決意したか?」

「いえ…。少なくとも、話を聞く価値はあると判断しただけです」

「随分消極的だな。即決してくれても良かったんだが」

「とんでもない。それは消極的ではなく、短絡的と言うものです」

あくまで、アイズとしては。

少なくとも、同じ卓に着くに値する条件だと判断した。

それだけの話だ。

まだこの申し出を受けるとは言ってないし、逆に断るとも言っていない。

賢明な判断だろう。

この時点で即決するには、条件が重過ぎる。

退路は作っておくべきだろう。

「それで?あなた方の計画とやらを先に聞かせてもらいましょうか。『帝国の光』の党員が集まってる場所に、スパイを送り込むとかなんとか」

「あぁ…」

「その作戦で、私達は何をすれば良い?あなた方に、何を要求されるのか。それを確かめないことには、イエスともノーとも言えませんね」

それこそ。

約束させといて、「じゃあ爆弾持って突っ込んできてください」とか言われたら。

取り返しがつかないもんな。

この時点で、どれだけ腹を割って話せるか。

「それは交渉成立してから話す」なんてアホを抜かすなら、こちらから交渉破棄だ。

退路は残しておくべきだって、言ったろう?

こちとら、危険な橋を渡るのは慣れてるが。

それは、危険を伴いながらも、橋を渡り切る自信があるからやっていることであって。

落ちること前提の橋を、誰が渡るものか。

それが分からないなら、オルタンス達もその程度の人間、ってことになるが。

「まず、『帝国の光』に感化されている学生が多いとされている、王立ルティス帝国総合大学に、学生として潜入してもらうことになる」

…躊躇いなく、腹を明かしてきたな。

さすがに、オルタンスもそこまで馬鹿じゃないか。

しかし、大学か。

しかも王立ルティス帝国総合大学と言えば、国内最難関と言われている大学じゃないか。

そりゃあ、そんなエリート大学に、共産主義的思想が広がっているとなれば。

オルタンス達も焦る訳だ。

次代の政治の担い手達が、共産主義に染まられると困るってことか。

「それから、今度は別の、私立の大学にも。目星をつけてるのは、私立ローゼリア学園大学だな」

これまた名門大学だ。

この大学の名前は、見ての通りだが、ローゼリア女王即位にちなんでつけられている。

絶対行きたくない。

「それともう一つ…『青薔薇連合会』には、『帝国の光』の本部にも潜入してもらいたいと思っている」

…おーおー。

大盤振る舞いの対価が、それか。

一番危険な役目を、俺達に押し付けるつもりだそうだぞ。
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