The previous night of the world revolution~T.D.~
「お勤め、ご苦労様」

「それはこちらの台詞です」

本日のお客様は、俺の「お得意様」の筆頭。

ルレイア先輩の派閥で準幹部をやっている、華弦である。

本来なら、連絡役はルルシー先輩なのだが。

如何せんルルシー先輩は男だから、『black sacrifice』の客としてやって来るのは難しい。

よって、女性であるルレイア先輩の部下が、連絡役としてここに通うようになった。

黒い革のソファに座るなり、俺は華弦の横に、恋人のように寄り添い。

彼女もまた、それを拒みはしなかった。

が、彼女に全くその気がないのは、火を見るより明らかである。

まぁ、俺も全くその気はないが。

でも、ちょっとくらいはときめいてくれても良いぞ?

さては、俺のこの漆黒仮面が眩し過ぎて、逆に近寄り難いのかもしれない。

仕方がない。漆黒仮面の罪は重い。

それはともかく。

そんなことより、今日は一番に確認しておきたいことがある。

「ルーチェスは?」

「無事に箱庭帝国に着いたそうです」

その質問をされるのを、待っていたかのように即答してくれた。

そうか。

それなら、良かった。

「亡命を受け入れてくれたんだな。あの箱庭帝国の坊ちゃんは」

「そのようですね。むしろ、国賓待遇らしいですよ」

それはそれは。

残念ながら、ルレイア先輩と、その箱庭帝国のルアリスという人物の出会いに、俺は立ち会っていないからな。

二人の間に、どんな関係があるのかは、人づてに聞いただけだが。

ルアリスなら大丈夫だと確信したルレイア先輩は、やはり間違っていなかったということだ。

ルーチェスが、無事に逃げられて良かった。

箱庭帝国なら、『帝国の光』も手出しは出来まい。

「『帝国の光』ではどうなってます?ルーチェスさんの名前は出てますか」

と、尋ねる華弦。

「酷い言われようだったぞ。ルクシア・セレネは危険分子の非国民だそうだ」

「危険分子…。総統がそう言ったんですか」

「あぁ。裏切り者は絶対に許さないらしい。今ルーチェスが戻ってきたら、『帝国の光』の拷問部屋送りは免れないかもしれないな」

「なら、なおのこと箱庭帝国で匿ってもらう必要がありますね」

「そうだな」

箱庭帝国にいる限りは、ルーチェスも無事だろう。

「…」

「…?どうかしたか」

華弦は、非常に浮かない顔をしていた。

「いえ…。まさか…党員本人でもない、ルーチェスさんの奥さんまで監視しようとするなんて…。『赤き星』は…いえ、『帝国の光』は…何ということを…」

「…全くだな」

新入りを半ば無理矢理、社宅という名の監視付きの檻に入れるくらいだからな。

ましてや『赤き星』は、『帝国の光』を母体とする派生組織の中でも、かなり過激、かつ原理主義的思想を持つ集団だ。

少しでも怪しいと思えば、埃が出るまで叩かずにはいられなかったのだろう。

かく言う俺も、叩かれると埃が出る身分なので、他人事ではいられないのだが。
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