The previous night of the world revolution~T.D.~
ルーチェスの無事が確認されたことで、ひとまず安堵した俺は。

「じゃあ、今夜も聞くとしようか」

「えぇ」

俺は、ワイヤレスではない、有線のイヤホンとと共に、スマートフォンを取り出した。

自宅で、監視カメラの映像を見ることは出来ない。

でも、ここでなら。

イヤホンの片耳を自分の耳に、もう片方を華弦に渡す。

二人で寄り添って、スマートフォンを眺める。

するとどうでしょう。

まるで、恋人と動画を見ながら、イチャイチャしている図の完成である。

こうしていれば、例え客として『帝国の光』の監視員が抜き打ちチェックに来たとしても。

俺はあくまでバイトのホストとして、客と戯れているようにしか見えない。

テーブルとテーブルの間には、充分な距離がある為、隣のブースから、スマートフォンの画面を覗き込むことは不可能。

それどころか、俺の隣のブースに入ったとしても、話し声すら聞こえないだろう。

そもそも、俺の隣には素性の割れた、つまり『帝国の光』からの監視員の可能性がある客は通さないよう、ウェイターに指示してある。

従って今夜も、俺の隣のブースには、『帝国の光』とか全く関係のない、常連の有閑マダムが座り。

今夜も楽しく、ワイングラス片手に、ホスト相手にお喋りに夢中になっている。

これなら、抜き打ちチェックが来ても、不審には思われない。

とはいえ。

恋人のように寄り添いながらも、俺達が眺めているスマートフォンの画面には。

『帝国の光』本部に仕掛けた、監視カメラの映像と音声が流れているだけなのだが。

全く以て、色気の欠片もない。

それに、この監視カメラの映像を見るという作業。

簡単そうに思えるかもしれないが、そりゃまぁ、眺めるだけなら簡単なのだが。

そこから、必要な情報を抽出するのは、なかなか骨の折れる作業なんだぞ。これが。

まず、ほとんどのカメラが無人だからな。

24時間撮影しているのだから、それも仕方ない。

誰かがカメラの範囲に入るまでが、まず長い。

カメラに映ったとしても、大抵そのまま通り過ぎるだけ。

学校の廊下に、監視カメラつけたらどうなるか、って考えてみれば良い。

映っているのは、ほとんど人の往来だけ。

わざわざ立ち止まって、お喋りに興じる者は、皆無と言って良いほどいない。

その点。

ルルシー先輩の寝顔を盗撮していたときは良かった。

どの瞬間を切り取っても、見所しかなかったからな。

あれに比べたら、この監視カメラ映像のつまらないこと。

思わず、眠くなってきそうだ。
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