The previous night of the world revolution~T.D.~
「へぇ。スパイを送るつもり、とか言いながら、いざ送られるスパイは、全員俺達ですか」

で、自分達は安全な場所で、高みの見物、と。

それだけの価値のある「見返り」を与えたんだから、それくらい良いだろうって?

舐められたものだ。

と、思ったら。

「王立ルティス帝国総合大学には、二人ほどスパイを送る予定だ。そのうちの一人がルーシッドだ」

オルタンスが、けろっとして言うと。

「えっ」

何も聞かされてなかったらしい、憐れな俺の後釜君が、いきなりご指名を受けてびびっていた。

話詰めてから来いよ。

「頼めるか?ルーシッド」

「え、は…。いえ…その、突然ですね…」

「俺もそう思うんだが、他にスパイになれる人間が、こちらにはいない」

「な、何故ですか?」

「単純に、年齢の問題だ」

…あー…。

そういう基準で選んでるのね。

成程、そりゃ『青薔薇連合会』にしか頼めない訳だ。

「帝国騎士団で、スパイになれるほどの実力を持ってる隊長さんは、耄碌したおっさんおばさんしかいないから。唯一学生でも通用するガキは、あなたしかいないってことですよ」

俺が、この上なく分かりやすく説明してあげたのに。

ルーシッドは、この腑に落ちなさそうな顔。

俺、何か変なこと言った?

それより。

「で、我々がスパイ役をやらされるのも、同じ。年齢が理由」

「『青薔薇連合会』の幹部組は、帝国騎士団の隊長達より若いからな」

「その通り。俺の性欲なんて、もう現役男子高校生にも負けな、もごもごもご」

「ちょっと黙ってような、ルレイア…」

何で。俺、何も間違ったこと言ってないのに。

それに俺は、以前高校に潜入したことあるしなぁ。

大学でもイケるだろう。

「それに、潜入調査に関しては、我々よりお前達の方が得意だろう?」

得意とか言って褒めときながら、危ない仕事を押し付けてこようとする、この厚かましさな。

まぁその通りではあるけど。

「つまり、大学に三人と本部に一人、合わせて四人のスパイを潜り込ませることにして、その四人のうちの一人がルーシッドで、それ以外は俺達がやれ、ってことだな?」

ルルシーが、睨むようにオルタンスに確認した。

「そういうことだな」

オルタンスは、あっけらかんと頷いた。

近所にお使い頼むみたいなノリで。

頭クレイジー過ぎるだろ。

しかも、一番危険な本部への潜入は、俺達『青薔薇連合会』から人員を割かなければならないんだろう?

やれやれ。「見返り」が美味過ぎると思ったら、案の定こんな罠。

「…引き受ける気はあるか?」

「…にわかには、返事が出来ませんね」

「スパイ役をそちらが多く負担してもらう点については、それなりの補償はする。いざとなったらすぐに退けるように、手配もしよう」

「それくらいは当たり前でしょう」

明らかに、こっちの方が危険な役目を担わされてるんだからな。

…とはいえ。

決めるのは、俺じゃない。

「…三日以内に返事をします。今日はこれで」

アイズは、そう言って立ち上がった。

「気に入らないか」

「そうは言ってない。ただ、この話を持ち帰って、こちらも話し合う必要があるというだけです」

賢明な判断だな。

ここで決めてしまうには、あまりに議論が足りない。

帝国騎士団の提示する「見返り」が、俺達の払うであろうリスクに見合うのかどうか。

この話を受けるとして、スパイ役は誰がやるのか。

こちらも、話し合うことがたくさんある。

「それすら待てないなら、交渉は決裂ですが」

「いや、それで良い。三日以内に返事が欲しい。…色の良い返事を期待している」

「勝手にどうぞ」

そう言い残して。

アイズが席を立った。

じゃ、話し合いは終わりだな。

さて、あとはこちらで話し合う番だ。
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