The previous night of the world revolution~T.D.~
私だって、これでも『青薔薇連合会』の幹部なのだ。

みかじめ料を払わず、あるいは誤魔化し、言い訳する連中の相手は慣れている。

連中がどういう言い訳をするのかも、大体分かっている。

その言い訳をどう論破すれば良いのかも。

大体、今回の場合は、私の方が圧倒的に優位だ。

今回だけじゃなくて、大抵の場合は私の方が優位なんだけど。

「とにかく、これ以上活動資金の多額使用や、勝手な独自ルールで規則違反を続けるようなら、学生会としても、制裁を考えない訳にはいきませんから」

制裁。

つまり、サークル活動の停止や。

最悪、強制的に『赤き星』を解散させる権限も、学生会にはある。

まぁ、解散させたところで、別のところで結成するのは分かりきっているが。

少なくとも、学生会の資金は使わせない。

『赤き星』の部室から出れば、ただの一般学生の一人でしかない彼らにとって。

学生会からもらえる活動資金を奪われるのは、かなり痛いだろう。

「今月の、この請求だって…。あまりにも多過ぎます。一体、何に使ったんですか?」

先月も、その前も、その前も相当なものだったけど。

今月はまた、飛び抜けて多い。

思わず二度見してしまったくらいだ。

しかし、何度見ても、金額は変わらない。

今月、この請求額が上がってきたということは。

実際にこの額を使ったのは、先月だ。

学生会の同好会活動資金の報告書は、まず先月の分がまとめられて、今月回ってくるシステムになっている。

だから今月使った分は、来月学生会に回ってくる訳だ。

先月。

ルーチェスが、失踪した月だ。

ルーチェスがいなくなったとき、あなた達はこのお金を使って、何をしたの?

「…書いてある通りよ。地方で行われた講演会に、サークルメンバー全員で参加して…」

白々しいことを。

ルーチェスは、そんな活動があったなんて、一言も言わなかった。

つまり、嘘をついているのだ。

講演会に行った振りして、本当は別のことに資金を注ぎ込んでいた。

「それにしては、多過ぎる気がしますけど」 

「先月、集中的に講演があっただけよ」

「その全てに参加されたと?」

「『赤き星』として、当然のことよ。あなたには分からないでしょうけど」

えぇ、私には分からない。

私の家族を、傷つけるような真似をする奴らの気持ちは。

でも、分かることはある。

サナミアが、嘘をついているということだ。

『赤き星』は、『帝国の光』すら越える、超原理主義的な共産主義組織だと聞いた。

地方で、ほとんど名もないちょっとした共産主義者の、胡散臭い講演会なんて。

この人達が、参加するはずがない。

やっぱり、講演会に参加して云々は、口実なのだ。

遠征費は、別の目的に使われたに違いない。

例えば。

裏切り者のメンバーを、探し出す為、とか。

あるいは、私の予想を越える使い方をしているのかも。

いずれにしても、申告に嘘があることは紛れもない事実。

そこを突き詰めて、サナミア達を追い詰めてやっても良い。

こいつらがルーチェスにしたことを思えば、それくらい、喜んでやりたいくらいだ。

…だけど。

踏み込み過ぎれば、私もルーチェスの二の舞い。

またしても怪しまれ、目をつけられてしまうだろう。

引き際は、ちゃんと弁えている。

私はあくまで、『赤き星』にとって「学生会の目障りな同好会委員」でなければ。
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