The previous night of the world revolution~T.D.~
「暇ですし、軽く手合わせでもしません?」と言って。

ルーチェス殿が、セカイ殿を伴って『青薔薇委員会』の本部にやって来たのは、つい二時間程前のこと。

俺は別に暇ではないし、むしろ忙しいくらいだったのだが。

折角のルーチェス殿の誘い、無下に断る訳にはいかないと、快く承諾した。

その結果が、これである。

『青薔薇委員会』の代表が、こうもあっさり、他国のマフィアにボコボコにされる。

こんな見苦しい様、国民達には決して見せられない。

「あなた、それでよく革命成功しましたね」

グサッ。

今日何度目だ。

ルーチェス殿の毒舌が、ナイフのように突き刺さる。

…言い訳をするのは、見苦しいかもしれないが。

俺が弱いと言うより、ルーチェス殿が強過ぎるのだ。

まず驚いたのは、ルーチェス殿の得物。

両剣という、珍しい武器をお持ちだった。

それだけでも、俺にとっては初見殺しも同然だった。

あんな難しそうな武器、一体どうやって扱うのだろうかと思っていたら。

ルーチェス殿は、あの難しい武器を、まるで自分の身体の一部のように、巧みに操ってみせた。

片方の刃を何とか防いでも、返すもう片方の刃が、音速の速さで飛んでくるんだから。

もう、防ぐとかそんなこと考える暇もない。

木剣じゃなかったら、一戦目の一合目で、俺の血飛沫が舞ってる。

いや、武器の初見殺しは、俺の弱さの言い訳に過ぎない。

あの武器の恐ろしさを差し引いても、ルーチェス殿は強過ぎる。

ルレイア殿を彷彿とさせる、スピード型の超近距離アタッカーで、一度懐に入られたら、最早手の出しようがない。

何とか攻撃を受けようとしても、あまりの攻撃の重さに、防ぎきれずにこちらが倒れてしまう有り様。

あの細身の身体の、何処にそんなパワーがあるのだ。

そして、体幹の強さ。

ルーチェス殿の武器は、あの両剣だけではない。

さっきの回し蹴り、彼が手加減してくれたから、転ぶくらいで済んだが。

もし手加減してくれていなかったら、今頃俺の内臓が潰れている。

もう、彼の全身が武器のようなものだ。

蹴りと拳だけで、相手を傷つける人は大勢いるし、大抵の人には誰でも出来ることだが。

蹴りと拳だけで、人を殺せと言われたら。

それが出来る人は、多分限られる。

余程打ちどころが悪かったとか、それなりの訓練を受けているとか、そうでもなければ出来ない。

そしてルーチェス殿は、後者のタイプだ。

その鍛え上げられた体術は、武器を持った相手でさえ、圧倒されてしまうほど。

両剣なしでも、俺、徒手空拳だけでルーチェス殿に負けていたのでは?

もう、激しく自信をなくしてしまいそう。
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