The previous night of the world revolution~T.D.~
家族であっても。どれほど親しい仲であっても。

勿論、言葉を交わす訳にはいかなかった。

俺の前にはエリアスがいて、後ろにはABCの三兄弟がいるのだ。

『帝国の光』が主催する受付の男性と、親しく会話をする訳にはいかない。

そう。

今日は、ここでとある共産主義団体の講演会が行われる。

その、とある共産主義団体の名は、『帝国の光』。

他ならぬ、ルリシヤが潜入している組織なのだ。

だから、最初にエリミア会長が、「『帝国の光』が主催する講演会に参加しよう」と言ったときから。

更に、講演会のポスターを見せられ、そこに『帝国の光』総統、ヒイラ・ディートハットの写真が掲載されているのを見たときから。

もしかしたら、同じく『帝国の光』の『裏党』とやらに所属している、

ルリシヤが、この場に来るかもしれない…ということは、予測していた。

そうなんじゃないかな、と思っていた。

多分、ルリシヤの方も同じことを考えていたのだろう。

俺が思いつくことを、ルリシヤが思いつかない訳がないのだから。

だから、お互い受付で久々の再会を果たしても、表情一つ変えなかった。

ただ、目を見ただけだった。

それ以上のことは、許されなかった。

俺達の繋がりを、他の誰かに悟られる訳にはいかない。

ルーシッドも気づくだろうが、あいつだって、腐っても帝国騎士団四番隊隊長。

ボロを出すようなことはあるまい。

…ルルシーを通して、ルリシヤの現状はある程度把握しているが。

俺より遥かに、縛られた生活してるんだってね。

叶うことなら、「お疲れ様ですよ本当。お互い頑張りましょうね」と、労いの言葉の一つでもかけてあげたかった。

でも出来ないから、一瞬のアイコンタクトで、その思いを伝えた。

ルリシヤなら、分かってくれるだろう。

だって、俺にも同じ思いが伝わってきたから。

以心伝心、って奴だな。

お?そんなことあるはずないって馬鹿にしたな?

一度でも、背中を預けて、命を預けて共に戦った者同士にだけ、分かるものがあるんだよ。

馬鹿にしたお前は、一度も命を懸けて戦ったことのない、平和な人生送ってるってことだよ。

…しかし、『裏党』であるルリシヤまでもが、この会場に来ているとは。

ルルシー情報によると、『帝国の光』は、『表党』と『裏党』に分かれており。

前者の方が、圧倒的に人数が多いと聞いた。

そして今日、これだけの規模、これだけの施設を借りて、講演を行うとなると。

相当、金と時間と手間がかかっていることだろう。

ルリシヤがここに、受付に立っているのが何よりの証拠だ。
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