The previous night of the world revolution~T.D.~
俺は、必死に戦っていた。

…眠気と。

もう寝ても良いんじゃないかな…。会場暗いし、寝ても良くない?

寝てる間に、こいつが何か重要なことを言ったとしても。

どうせ、糞生真面目ルーシッドは、律儀に聞いているんだろうし。

ついでに言えば、俺の鞄のポケットに、小型のボイスレコーダーを仕込ませてある。

いや、後でアイズレンシアに送ろうと思って。

でも、この内容だったら別に、録音なんかしなくても良かったんじゃないか?

だって。

「ルティス帝国にある富や資源は限られている。それを、王族率いる帝国騎士団が独占しているのが、今のルティス帝国の最大の問題だ」とか。

神妙な顔してさ。

こいつの言ってること、

ほぼ、年齢サバ読みおばさんと一緒。

そういえば君、元々『天の光教』にいたんだっけ。

あれだね。ルチカおばさんの講演、そのままパクってんのね?

俺、おばさんの講演、ナマで聞き、ついでに『青薔薇連合会』に持ち帰って録音したのを聞き。

ついでに、帝国騎士団に持っていったときも聞き、散々聞かされたからさ。

なんかもう、これ何度目?みたいな気分。

何だろう。既に使い方を熟知している機材の説明書を、何度も繰り返し読まされてる気分。

そんなん知ってるっつーの。

何回聞かせんだ。うぜぇ。

おまけに、こんな下らない内容なのに、観衆が熱狂して聞いているのも、ルチカおばさんのときと一緒。

いや、観衆が血気盛んな若者なだけあって、ルチカおばさんのときよりも、観衆の熱意は凄いな。
 
何より、ヒイラとルチカおばさんの違いは、性別だけではない。

まずヒイラの弁舌には、宗教的な要素が含まれていない。

『帝国の光』は、『天の光教』とは違う、と明確に線引きしているらしい。

それは結構。

要するにこいつの講演は、ルチカおばさんの講演から、「神の愛を〜」云々を引いて。

残った部分を、より強調して述べているに過ぎない。

ただし、ルチカおばさんとはまた違う、面倒臭さがそこにはある。

何かと言うと、ヒイラは神の愛云々の代わりに、「自分達若者が、ルティス帝国の未来を担うのだ」という意識を、聴衆に植え付けようとしている点だ。

成程、そう来たかと思った。

「帝国騎士団と王族を追い出せ〜」とか、「貧富の差をなくして皆平等に〜」とか、そんなありきたりなことなら、誰でも言える。

そんなありきたりな台詞に、人々は振り向かない。

それは、ルチカおばさんのときと同じだった。

しかしルチカおばさんは、そこに宗教的なエッセンスを…「神」という、目に見えない大いなるものを信じ込ませることで、人々を一つにまとめようとしていた。

一方のヒイラ坊やは、いるかいないかも分からない神様を利用せず。

ルティス帝国の、血気盛んな若者達に向けて。

「ルティス帝国の次代を担う、自分達だからこそ」という、ある種の選民思想を以て、若者達を洗脳しようとしている。

言い方は違えど、根本的なやり口は同じだ。

そりゃあ若者達は、「君達こそがこの国を未来を変えるんだ、他でもない君達が!」と強調されれば。

誰だって、「我こそは!」と思うだろう。

宝くじと同じ思想だな。「自分こそは当たる!」って思う馬鹿。

何様だ馬鹿、って俺は思うのだが。

悪い意味で、まだ現実を知らない若者にとっては、効果覿面。

自分がやるんだ、自分達の手で国の歴史を変えるのだと、思い上がった使命感でいっぱい。

お前が変えられるのは、精々今晩のメニューを肉にするか、魚にするか程度だということも知らず。

全く以て、無知とは恐ろしいものだ。

そしてその無知なる使命感で、彼らは今晩のメニューどころか。

祖国の行く末までも、変えようとしているのだ。

断じて、許されることではない。
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