The previous night of the world revolution~T.D.~
「ここにいる俺達の手で、この国を変えよう。今こそ、隣国箱庭帝国のように、ルティス帝国に新しい時代をもたらすんだ!」

そして、このヒイラという男。

無駄に、他人を牽引するカリスマ性だけは持っているようで。

その点は、ルチカおばさんと同じだな。

お陰で、血気盛んな奴らが、余計に血の気を騒がせている。

「王制を、貴族制度を、帝国騎士団を倒そう。俺達の手で。腐った旧体制に支配されたこの国を、俺達が解放するんだ」

むしろ、お前はこの場にいる人間を縛り付けようとしてるんだって。

気づいてないのか?この坊っちゃんは。

「さぁ、立ち上がろう。そして語りかけるんだ、一人でも良い、君達の近くにいる人に。『この国は間違ってる。正さなければならない』と」

…。

「そうやって、皆に気づかせるんだ。旧態依然とした、腐敗したこの国の現状を。そうすればきっと、変わるはずだ。変えられるはずだ」

…。

「勿論、俺達は武力を使ったりはしない。そんなものを使って他者を抑圧するなら、それは帝国騎士団が現状行っている暴挙と変わらない」

…。

…だってさ、ルーシッド。

だってさ、ルアリス。

ヒイラお前さぁ、さっき「箱庭帝国のように」とか言ってたけど。

ルアリスは、思いっきり武力を行使して祖国を解放してましたが。

まぁ、それ以外手段がなかったこともあるのだが。

暴力を使ったという事実は、なかったことにするつもりで?

「俺達は、あくまで、対話と相互理解によって、ルティス帝国を変えるんだ。俺達がここで志を同じくし、そしてこの志を、広く広く、全ての国民達に広げていくんだ」

…おかしなこと言ってんな。

こいつおかしなこと言ってるのに、誰も止める気配がない。

「そして、王侯貴族達を除く全ての人間の志が同じくなったとき、俺達は声高らかに叫ぼう。王宮の前に出て、俺達を散々苦しめた連中に向かって」

おいおい。

誰か止めろって。

今回は、俺止められないんだよ。スパイやってるからさ。

しかし、誰も止める者はおらず。

「『もう、この国にお前達は必要ないんだ!』と!ここにいる俺達なら、きっとそれが出来る!」

ヒイラ・ディートハットが、高らかに宣言すると。

彼に応えるように、観衆がスタンディングオベーションで手を叩いた。

やりたくはなかったが、エリアス達も立ち上がったので、俺も同じく立ち上がった。

しかし、ルアリスも、恐らくこの場の何処かで同じ演説を聞いているであろうルリシヤも。

俺と、同じことに気づいているだろう。

…この男、自分が矛盾したことを言ってることに、気づいてないのか?

それとも、単に、超弩級の馬鹿なのか。

どっちだ?
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