The previous night of the world revolution~T.D.~
「…ねぇ、ちょっと待って」

シュノさんが言った。

「何でしょう?」

「スパイとして潜入するのは、大学だけじゃないでしょ?その…『帝国の光』っていう、共産主義の集団本部にも、スパイを送るんでしょう?」

「そうですね」

「そこは?そこは成績が良くないと駄目なの?もし賢くなくても良いなら、私でも行けるでしょう?」

シュノさんの、何とか自分も役に立ちたい、という意気込みを感じる。

「そうですね…。まぁ、大学ほどの頭は必要ないでしょうが…」

そこらの、有象無象大学の連中も入ってるんだろうし。

しかし…。

「政治組織だからな。一応、政治討論が出来るくらいの頭は必要だな。どうだシュノ先輩、政治には詳しいか?」

「うっ…」

ルリシヤに尋ねられ、口ごもるシュノさん。

…うーん。これもやっぱり、ある程度の頭は必要だよな。

「それに、『帝国の光』への潜入は、大学への潜入より遥かに危険です」

何せ、敵の本拠地に飛び込むも同然なのだからな。

「当然、スパイが紛れ込んでいないか、隠れて内通している者がいないか、互いに監視し合ってもいるでしょう。そんな疑いの目を、掻い潜る自信がある人はいますか?」

俺がそう言うと、シュノさんは観念したように黙り込んだ。

自分には無理だと判断したらしい。

その方が良い。

虚勢を張って、しくじって危険な目に遭うより、ずっと良い。

すると。

「はい」

仮面の男ルリシヤが、自ら挙手した。

「『帝国の光』本部には、俺が潜入しよう」

…君なら。

そう言うと思ったよ。

「ばっ…。お前、またそんな無茶を…」

「ふ、俺を舐めたなルルシー先輩。俺は『青薔薇連合会』のツタンカーメンだぞ?スパイでも何でも、美しく華麗にこなしてみせよう。この仮面に誓って」

さすがルリシヤ。

もう全部、任せても良いんじゃないかって思えるよね。

「俺も、ルリシヤなら適役だと思いますよ。小細工は彼の得意分野ですし、いざとなったとき、例え捕らえられても一人で脱出する実力があります」

「その通りだルレイア先輩。分かってるな」

「ルレイア、お前まで…。煽るようなことを言うな」

いやいや、煽ってんじゃなくて。

「ルリシヤの実力は、あなたも分かってるでしょう?ルルシー」

「…」

ルルシーは黙り込んだ。

思い出したのだろう。

ルリシヤの、これまでの活躍を。

特にシェルドニアの一件では、危うく俺の主人公の座が奪われるほどの活躍ぶりだったもんなぁ。

良くも悪くも、感情を隠すのも上手いし。

恐らくこのメンバーの中では、最もスパイに相応しい人物と言えるだろう。

故に、『帝国の光』に潜入するには、ルリシヤ以上の適役はいない。

で、残るルティス帝国総合大学と、私立ローゼリア学園大学に潜入するスパイだが…。

候補は、俺とルーチェスだけだ。

だから、どっちがどっちに行きたいか、という話になる。

「ルーチェス、どっちにします?」

「さぁ、僕はどっちでも。あ、でも姉学園大学の方が自宅に近いので、自宅から通いたい僕としては、そっちの方が良いですね」

成程。

ルティス帝国総合大学は、ここからはちょっと離れてるもんな。

通うには、下宿先を探さなければなるまい。

それに、ルティス帝国総合大学にはルーシッドも来るとのこと。

ルーシッドとしても、元王族とスパイ活動はやりにくいだろう。

まぁ、そもそもマフィアと共同でスパイ活動という行為そのものが、やりにくいだろうが。

「じゃあアホ女王学園大学の方は、ルーチェスにお願いしますよ」

「了解でーす」

「これで人選は決まったな」

まぁ、落ち着くところに落ち着いた、って感じだな。

あとのメンバーは、裏方に回ってもらうということで…。

「…ちょっと待て。お前ら」

そこに。

ルルシーから、ストップが入った。
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