The previous night of the world revolution~T.D.~
何故、ルアリスが対話ではなく、武力によって憲兵局を黙らせたと思う?

対話が通じる相手ではなかったからだ。

箱庭帝国に倣って、などと言いながら。

箱庭帝国とは、真逆のやり方をしようとしている。
 
ヒイラの話を聞くに、この男の革命プランは、

「国民感情が一つになれば、自ずと、支持するものがいなくなった王族と帝国騎士団は瓦解し、自分達の手に政権が戻ってくる」というもの。

まぁ、ルチカおばさんのやり口とほぼ同じだ。

『帝国の光』は『天の光教』の残党組織なのだから、別におかしくはないが。

しかし、ヒイラ坊やとルチカおばさんの違い。

誰も気づいてないようだから、言わせてもらうが。

ルチカおばさんは、「今」この国を変えようとは言わなかった。

あの人は、もっと大局を見ていた。

そりゃあ、改革が早ければ早いほど良かったんだろうけど。

「いつか」改革が為し遂げられればそれで良い。そんなスタンスだった。

だからこそ、あちこちでコソコソとデモを繰り返していた。

実際言ってたもんな。「今別の宗教を信じている者はどうするのか」の問いに対して。

「いずれ神の愛に触れれば改宗するだろう」とか何とか。

つまり、何十年でも、何なら何百年でもかけて、ゆっくり変わっていけば良いと思っていた。

あの女は、独裁者気取りではあったけど、自分が独裁者になるつもりはなかった。

しかし、ヒイラ坊やは違う。

本当に「今」この国を変えたいのなら、それこそルアリスのように、革命軍を組織し。

一気に奇襲、独裁者を武力によって打倒しなければ叶わない。

そしてヒイラ坊やは、「いつか」じゃなくて、「今」ルティス帝国を変えようとしている。

だって、ルチカおばさんのように、悠長に国民に『天の光教』が浸透するのを待っていたら。

国民全員が、「王族死ね!帝国騎士団も死ね!」なんて思うようになるには、何年かかるか、分かったものじゃない。

忘れるな。ここにいるのは、確かに共産主義に熱心な若者達だが。

逆に言えば、熱心な若者達以外は、こんな講演はアウトオブ眼中なのだ。

一部の過激な若者達が、ギャーギャー騒いでるだけで。

他の国民達は、『帝国の光』のことなんて知りもせず、王族と帝国騎士団の管理のもと、呑気に日々を謳歌しているのだから。

おまけに今は、『天の光教』のときと違って、不景気で国民がネガティブな感情になっている訳ではない。

むしろあの不況を乗り越えたことで、「なんだ、案外帝国騎士団も悪くないじゃん」という雰囲気。

『天の光教』みたいに資金力が豊かではないから、布教本を作ってばら撒くことも出来ない。

例え布教本を作ったところで、景気が回復し、皆がそれぞれの生活に没頭している今、そんな怪しげな本を手に取る者が、どれだけいるか。

つまり。

ヒイラ坊やが言うような、「今」ルティス帝国を変えることは、不可能なのだ。

何か、きっかけがなくては。
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